エソラゴト

存在のない子供たちのエソラゴトのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
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昨年のベスト映画にも選んだ『判決、ふたつの希望』に引き続き2年連続でまたしてもレバノン映画に大きく心揺さぶられました…。そして今作もまた今年のベスト映画に入る事間違いなしの傑作でした。

『判決…』では地理・宗教・人種など複雑に入り組んだレバノン国内の現状を歴史的背景なども絡めて描きレバノンというあまり馴染みの無い国の実情を知る事が出来ましたが、今作ではもっともっと奥深く社会的にも最も弱い者である移民や難民の子供や女性達が今尚過酷な立場に身を置かれている現状を描いた作品となっています。

どの時代でも自己中心的で身勝手な大人の理不尽な行いや振る舞いにより犠牲になるのは決まって立場的にも身体的にもか弱い者達ばかり…。

笑顔も無く伏し目がちに黙々と日々を生き抜いているゼイン少年が予告編でも流れるそんな大人達への宣戦布告とも取れる強烈な訴え、そして彼の幼いながらも聡明で冷静な目で見つめていたこの世界に対する思いの丈をぶちまける心情吐露には言葉が出ないくらいに打ちのめされました。


そしてただでさえ鑑賞中に胸を抉られる思いだったのに追い打ちをかけるように鑑賞後に読んだパンフに書かれた演者達の紹介文にはただただ愕然…。

ゼイン少年の弁護士役としても出演していたナディーン・ラバキー監督がキャスティングしたのは、俳優ではなく全員が現地で集められた素人であり、今作のまるで当て書きでもしたような過酷な人生を歩んできた(又は今もその状態の)方々ばかり。

彼等の演技とは到底思えない演技の源はここから来ているものなのかと知り改めて劇中の彼等の心のうちを思い返しつつ、やはりあのラストカットでは今でも感情が抑え切れずに目に涙が浮かんでしまいます…。