Tako

レッド・ノーティスのTakoのレビュー・感想・評価

レッド・ノーティス(2021年製作の映画)
3.5
お子様や映画初心者も楽しめる痛快な活劇作品。
ライアン・レイノルズ主演のNETFLIXオリジナル作品では痛い目を見たので警戒をしていましたが、こいつはびっくりなかなかの佳作です。

エジプトの秘宝"卵"を巡り、世界最高の美術品泥棒と泥棒界のフィクサー、そしてFBIの凄腕プロファイラーが時には反目し、時には協力しながら目的を達成すべく奮闘する――

こんなあらすじですが、作品全体の雰囲気はかつての80-90年代の冒険活劇そのもの。凝ったストーリー展開や哲学的なテーマはまったく差しはさまず、キャラクターの味と掛け合い、ポップ&コメディの進行は、ややもすれば古臭さもありますが、ここまで作ってしまえばむしろ気持ちいというもの。
この作品における最高に効きのいい要素はなにをさしおいてもコメディ!
序盤から、
「この作品はコメディだぜ! あんまり難しいこと考えてみるんじゃねぇぞ!」
という制作サイドからの主張がストレートに届いてくるのでこちらとしてもスタンスがすっと決まってくれました。パロディ的なシーンや演出が多いのもわかりやすくてグッド。
もしこの作品がちょっとでも"真面目"な作品として見られたい、などといったスケベ根性があったとしたらトンデモナイ作品になっていたことでしょう……

コメディ路線をしっかりと表明するキャラクターを演じるのにライアン・レイノルズをおいて右にでるものはいません。
下品な軽口、飄々とした態度と空気。
しかし心の底では傷つきやすく、コンプレックスに苛まれている……
そんなキャラクターを演じさせたら本当にドンズバな俳優です。
なし崩し的に捜査官と行動をともにしなければならない泥棒役、なんて彼のためにあるようなもんじゃん!
といっても大味のみならず、捜査官との関係や心の距離、機微をしっかりと演じてくるあたり流石の芝居力です。

そんなキャラクターに翻弄されつつも、ひょんなことから協力関係にならざるをえなくなった捜査官を演じるロック様ことドウェイン・ジョンソンも見事にキャラにはまっています。
別作品ではその鍛え上げられた筋肉を惜しげもなく披露し、タフなアクションを数多く演じている彼ですが、今作ではそのトーンはやや控えめ。
どちらかというと、ドタバタと嵐のように巻き起こる厄介事をとにかく乗り越えていくようなポジションです。
凄まじいガタイながらもバタバタと狼狽え、要所では知恵もの的な活躍を見せるキャラクターは変な言い方にはなりますが"恰好良すぎない"といった塩梅であり、どこか愛嬌があってバディとの相性も抜群。

美術品泥棒界におけるフィクサーである"ビショップ"を演じるガル・ガドットもこれまたはまり役。艶めいた美貌とストーリーの中心にいる強者感も相まって作品全体のまとめ役をしっかりと果たしています。
正直なところアクションシーンでの迫力にはやや欠けていましたが、そのあたりはコメディだし、べつにいいよね!

ストーリーはこってこてで先が読めない展開、なんてものはただの一つもありませんでしたが、最後のひっくり返しにはちょっと驚きました。
読み筋の候補に入らない訳ではありませんが、まさかそこを使ってくるか! と素直に感心しました。やられたぜ。
ただし、このひっくり返し要素は、作品を見るモチベーションであるキャラクター同士の関係性にたいしてやや強引にヒビを入れるものには違いありません。
感心した反面、
「え、いままで見てきたのなんだったん?」
とならなかったといえば嘘になります。
とはいえ最後の最後でこの感情にたいしては答えというかフォローがあるので全体を通せば悪くない展開だとは思います。

極寒の牢獄からの脱走や武器商人との対決、凄腕捜査官との追走劇など盛りだくさんのアクション要素ですが、そのどれも手ひどい流血などがないのが印象的です。
かなり意図的に排除されたそれらの要素ですが、そもそもコメディだからそこまでドギツイものは必要なく、むしろ子どもも安心して観れるような水準を最後まで維持しているあたり制作陣の射程の取り方の正確性が伺えます。

全体を通してかなりちゃんと造られた作品には違いありませんが、そのちゃんと具合のために、慣れている人間にはどうしても物足らないのが玉に瑕です。
メインストーリーである"卵"を巡る決着のさせ方についてもやや肩透かしであり、もう少しこの要素を掘り下げてカタルシスを高めてくれても良かったかなぁというのが不満点らしい不満点。
エド・シーランには笑いましたが。もしや、この人けっこう出たがりだな。

突出した面白さはありませんが、幅広い年代でも難しいことは抜きで楽しめる娯楽活劇作品としてはオススメの作品です。最近小難しいのばっかりでちょっと疲れてるんだよなぁ、という方はアタマ空っぽにして鑑賞できるレッド・ノーティスをぜひ!
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