Tako

キャッシュトラックのTakoのレビュー・感想・評価

キャッシュトラック(2021年製作の映画)
3.0
無敵の男、ジェイソン・ステイサムの違った一面が味わえるノワール映画。
劇場公開時に予告編を見てちょっと気になったものの映画館に行くまでにはいたらなかったけど早速のAmazonPrimeに登場したので視聴しました。映画館で見なくてもいいかな……

現金輸送車の警備中、凶悪な強盗によって社員を二人も失った警備会社のもとに一人の男が転職してきた。その男は優秀な実績を持っていたが、入社試験の成績はいたって平凡。無口だが実直な彼に仲間の社員たちはいつものように下品な軽口で対応するが、強盗犯たちを凄まじい腕前で撃退したことにより周囲の評価はひっくり返る。
"英雄"だと囃し立てる仲間や社長をよそに、この男のただならぬ気配に警戒感を抱き始めるものが――

こんな感じのあらすじの作品ですが、もちろんジェイソン・ステイサム演じるこの男に謎がないはずがなく、腹に一物も二物も抱えた曲者です。
相変わらず雰囲気抜群の芝居を披露し、この作品の中心を担っている――というかこの感じを楽しむのが今作の味わい方になるでしょう。

他作品ではカーチェイス、格闘、ガンアクションと万能にこなし、どんな悪役を前にしても無敵の男ですがキャッシュ・トラックではこれらのシーンはやや控えめ。
といっても無双するには違いなく、やっぱり強い役柄なので、最強人類ジェイソン・ステイサムが見たいんじゃ! という人にとっては問題ないレベルかもしれません。

アクションが核ではなく『この人物の真の目的はなにか』そして『それは達成できるのか』という疑問の解決がこの作品の核となります。
有体に言えば"復讐譚"
このモチーフ自体は悪くありません。古今東西、復讐をモチーフにした名作は溢れるほど存在します。
しかし、今作の出来栄えはそれらの名作の仲間入りを果たすにはやや厳しい仕上がり……

一番の問題点はストーリーテリング(進行)の問題。
個々のシーンの完成度は悪くありません。キャストの芝居も良く、安定した画作り、演出などはしっかりとクオリティを担保しています。
しかし、それぞれのシーンが独立しており、一連のストーリーを形成していません。
というのも、主人公は復讐のためにさまざまな行動をしているのですが、その行動が次の行動や情報を導てくれません。

たとえば、警備会社の人間を秘密裏に調査していくのですが、その調査結果がストーリーになんの影響も及ぼさない!
ただこんなことをしてたよー、と観客に見せるだけ!
んなことありか!?
かなり血なまぐさい行為にも及んでいますが、それすらも"ストーリー"には寄与しないのです。なんてこった!

単純に彼のキャラクター性――復讐のためならどこまでも執念深く、かつ優秀に行動してみせる――を描くことに終始しており、肝心の物語につながらず、ぬるりと事実が明らかになっていくだけ……
それらの事実も、とにかく主人公の復讐心がこれだけ強いんだぜ、ってことを言うだけになっているのも非常に良くない。

映画というよりも場面集といった感触が強く、最後の決戦の舞台が明らかになった瞬間もこちらの準備が整う前にがん! と提示されてしまい、
「え! あ、はい、あぁ、そう、うーん、まぁ、そうよねぇ、が、頑張って」
といった感情で出迎える羽目に。
しかも彼の目的や感情面において真新しい点はまったくなく、事実が明らかになっても謎解きのそれ以上の味がないのも満足感の低さに繋がっています。

さまざまなキャラクター(ほとんどみんな下品)が登場し、わちゃわちゃしたやり取りもありますが、個々に焦点が当たることはほぼなく、舞台装置に徹してしまっているのも惜しいポイント。
とことんジェイソン・ステイサムが孤高の男で彼らと絡む隙がありません。
あれだけキャラクターを登場させたんですから、もっと職場でのやりとりや感情の交錯があればもっと違った味が出せたと思うんだけどなぁ。

ジェイソン・ステイサムの内に秘めた殺伐とした空気や音響・音楽による演出で作品全体に一定の緊張感が保たれているだけに勿体ない!
(でも最悪なのはそれぞれのセクションで出てくるサブタイトル。あれなんだ? 制作陣の誰も止めなかったのか?)

とはいえ、ノワールな雰囲気、初志貫徹の美学、そしてなによりジェイソン・ステイサムのオーラ! これらのワードにピンと来た人は上記の問題点などはまったく気にせずに作品を楽しめるのは確かなので、気になった人はご視聴してみてはいかがでしょうか!
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