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ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジのTakoのレビュー・感想・評価

3.0
前作ヴェノムの続編であり、ついに"大虐殺"を冠する人気ヴィラン、カーネイジがついに登場――
……なのですがその出来栄えは凡作of凡作。
個人的には非常にガッカリした作品となりました。

前作より"同居"しているヴェノムとエディですが、ヴェノムは人間を食べたくて仕方がなく、たいしてエディは鬱陶しいエディがいなくなって欲しいと両者の思惑はしょっぱなからすれ違いっぱなし。
好き放題のヴェノムを相手にエディは日常生活すらままらず、花形記者への返り咲きも前途多難。そんなとき、ある連続殺人鬼――クレタス・キャサディからエディに連絡が入る。
「事件のすべてを告白する。君にそれを記事にしてもらいたい」

――と、今作の導入をまとめるとこんな感じになりますが、この導入を真に受けると痛い目に合います。
この導入からイメージするのは、
「この殺人鬼は一体どんなおぞましい人物なのだろうか?」
「事件を通してエディは記者として名誉を回復できるのだろうか?」
「どうして殺人鬼はエディに依頼したのだろうか?」
といった疑問の数々ですが、その答えはまったく示されることなくストーリーは進行していきます。
謎や動機、真相などはなにもありません。
ウディ・ハレルソン演じるこの殺人鬼クレタスがひょんなことから"カーネイジ"になってしまうのですが、すべてはそこありき。
物語そのもので観客の興味や関心、興奮を高めていこうとする意識はまったくありません。出来事やストーリーの進展のオモシロさは皆無です。

この殺人鬼クレタスにスポットを当てることで映画をまとめようという意図はわかるのですが、肝心要のこのキャラクターの描き方がとても残念……
といってもキャラクターそのものは悪くありません。
ウディ・ハレルソンは不気味で恐ろしげな人物イメージをしっかりと演じていましたし、衣装や造形などはいわゆるサイコキラーのイメージのストライクゾーンに収まっています。
しかし、古今東西の魅力的なサイコキラーを前にしてしまうと、いかにもありきたりでどこかで見たような雰囲気が否めません。レク…ジョ…
キャラクターとしての独自性も乏しく、ヴェノムの世界だからこそ描けた特別な悪役にはまったく至っておらず、それらしく出来ているからこそなおのこと物足らなさが顕著になるという負のスパイラル……

その印象の薄さに拍車をかけているのがエピソードの描き方です。
彼は祖母と母親を殺害し、その精神に問題があるとして精神病院に送られ酷い虐待を受けた過去を持ちますが、通常の映画であればそれを『シーン』として描くでしょう。
しかし今作では落書きのようなアニメーション(もちろんわざとでしょうが)とキャラクターの語りによってこの過去を観客に伝えるという手法を取っています。
伝聞かつデフォルメによる表現はわかりやすさはあるものの、深い共感を得ることは非常に困難です。
殺人鬼が殺人鬼に"なってしまう"に足るだけの説得力はそこにはなく、あくまでも情報として、
「あ、そうなんだ。ふーん」
に終始してしまった点が最大の問題です。

この問題は、彼の相棒であり恋人であり超能力者であるシュリークとの関係性においても同様です。
精神病院時代、殺人鬼キャサディをただ一人助けてくれたのがこのシュリークです。彼は彼女を"天使"と称し、惜しみない愛を語るのですが、正直いうとぜんっぜん伝わらない。
もちろん構図としては理解できますし、作中にもあったようにボニー&クライド然としたやり取りに魅力があるのもわかります。
しかしあまりにも類型的であり、
「あ、そうなんだ。ふーん」
を突破する瞬間がこれっぽっちもありませんでした。
というのも彼女のキャラクター性やバックボーンについて詳細が語られることは一切なく、殺人鬼クレタスのどこに惹かれたのか、どこに共鳴しているのかが描かれていないからです。
そんなもん愛する二人を見りゃわかんだろうが!
という突っ込みもあるかもしれませんが、その想像力の火種になるものさえ提示しないのは『映画』作りとしては褒められたものではありません。
もう少し丁寧に映画を作って……

キャラクターの描き方の欠陥もさることながら、もっともガッカリしたのは戦闘シーンです。
ヴェノムやカーネイジなど、超常的な力(筋力や射程においても)を持ちながら、彼らがやっていることといえば、ちぎっちゃ投げ! ちぎっちゃ投げ!
メインビジュアルのカーネイジには鋭い触手が何本も生えていますが、決してそれを警備員や囚人に向けることはありません。
ぶん殴るがぶん投げるだけです。カーネージが。
……そんなことあるか!
(竜巻にはなりましたが。あれなんだったの?)

恐らくはレーティングによる制限があり、斬るや貫く、引き裂く、噛み砕くなど過度な残酷表現や露骨な流血描写が禁じられているのでしょう。
これのせいでカーネイジがまったく恐ろしい存在に感じられないのがこの映画最大の失敗です。
敵対者が恐ろしく強大な存在であることは非常に重要です。
観客はその恐ろしさや強さを前にして、
「どうやってこんな奴相手にエディやヴェノムは立ち向かうんだ……」
とハラハラすることになるのですが、このカーネイジはぶん殴って、投げてくるだけなのでへっちゃらです。きっと倒すでしょう。
もちろん残酷であればいいというわけではありませんが、あの超有名かつ人気ヴィランであるカーネイジが恐ろしくない、というのはただそれだけで肩透かし。もったいない……

個人的に一番面白かったのはヒロインであるアンの婚約者(結婚相手?)であるダンのちょっとした活躍。お前ノリノリだな!

長いところ作品の良くない点ばかり書いてしまいましたが、客観的に見ても映画の平均値は取れている作品だと思います。
ヴェノムがエディに抱いている感情はかなりストレートに描かれている(ただどうしてそうなのか、についてはまったく不明ですが)ので、二人の関係性が見どころだという方は全身全霊で楽しめます。
前作ヴェノムが好き、エディとヴェノムの掛け合いや関係性を見るのが好きなんだよ! という方にはオススメの作品です。映画館でぜひ!

【追記】
メインテーマがエミネムじゃなくなってたのもショック!
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