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愛がなんだのkoyaのレビュー・感想・評価

愛がなんだ(2018年製作の映画)
4.7
「幸せになりたいっすねぇ」

ほとんど片想いの「都合のいい男」中原(若葉竜也)がつぶやく。

「愛なんじゃないですか?」

また中原が言うとテルコ(岸井ゆきの)は

「なんだよ、愛って。愛がなんだ!」

そういうテルコはまもちゃん(成田凌)に依存とも執着ともいえる想いを抱いている。好きだとか愛だとか、簡単に口に出さずに目で愛とも執着とも言える「鬼」のような表情を見せる岸井ゆきのが凄い。

そして、ダメ男なのに魅力的で冷たくて優しくて、身勝手で無防備な成田凌のふらふらぶりも見事。

かなくななまでに自分を押し通すテルコの友人、葉子(深川麻衣)の筋の通しぶり。中原に好かれても振り回すだけで何の呵責も感じない。

自由奔放でがさつで自分の意見をはっきり言う30女、すみれ(江口のりこ)の迫力。

この映画はとても複雑で、巷にあふれるラブコメ、恋愛ものなんか蹴散らしてしまう。
それは残酷さと正論で固められた脚本の良さによります。
原作があることに驚きを覚えました。

映画は登場人物を徹底して突き放しています。
ダメ男、ダメ女......完璧な人間などこの映画には出てきません。
ヒーローもいない、ヒロインもいない。
恋愛すらない。
でもこの映画は立派な恋愛を描いた恋愛映画です。

20代後半の女性の焦りと自分に都合のいい思い込み......それをこの映画は丁寧に分解していきます。まもちゃんはそんなテルコを都合のいいように扱う。まるで自分の召使のように。風邪をひけば呼び出し、内面に踏み込んで来ようとすると冷たく残酷な言葉で拒絶する。

「いい感じの距離」とまもちゃんは言うけれど、テルコは葉子だけでなく傍から見れば、隙だらけの都合のいい女、でもまもちゃんの事ばかり考えているようで、実は自分の事ばかり考えている。
ただまもちゃんが、自分の思い通りにならないと怒るのではなく逆に理屈をつけて自分を騙す。

テルコの姿はかつての20代後半の自分自身に思えてしょうがありません。むしろ「彼氏が欲しい~」などと不満を持っている女性たちすべてに言えることなのではないでしょうか。

そしてラストが衝撃的。テルコの闇は深い。
そしてそれは人を好きになった事がある人が自覚は別として必ず持つ闇のような気がします。
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