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飛べない鳥と優しいキツネのmaverickのレビュー・感想・評価

飛べない鳥と優しいキツネ(2018年製作の映画)
3.7
主演は『コクソン』のキム・ファンヒ。共演にEXOのスホ。

10代の少女の学園生活の話であり、ティーン向けな作品であることは想像できるが、EXO効果を狙ったそっちの意味でのティーン向けな作品性でもある。多感な時期の少年少女の話であり、いじめがテーマになっている真面目な作品。同年代の子供たちにはもちろん、大人の心にも響く良い話である。だがいろいろと惜しいというか、雑さを感じてしまうのが残念。展開が丁寧でないところがあり、所々脳内での補完が必要だった。
原作はウェブ漫画らしい。それを鑑賞後に知り、なるほどなと理解が出来た。確かに漫画的だなと。ファンタジー的な要素も盛り込まれており、突然差し込まれるその描写には戸惑いを感じてしまった。ここも脳内で補完ができるのだが、見せ方にもっと工夫がほしかったなと。そういう所々のチープさが残念で、鑑賞後にもやもやが残ってしまった。全体的にクオリティの高い近年の韓国映画にしては逆に珍しいなと。残念な部分は邦画のそれに似てる。

テーマになっているいじめの部分の描きかたも典型的だった。韓国でもこんなあからさまないじめが行われているのだろうか?人間を描くのが上手い韓国映画にしては、典型的ないじめのシーンをただ見せているように感じてしまった。それを見ていじめに対しての嫌悪感は激しく感じるので、使われかたとしては正しい。でも人物の繊細な心の揺れ動きが感じれなかったなと。台詞での説明と演者の感情表現に頼っているという印象だ。父親に虐待されているシーンでの表現は真に迫っていたので、監督がいじめに対しての心理的描写をよく理解できていないのかなと考えてしまった。

惜しいと表現したように、もうちょっと工夫したら良かったのになと感じる作品ではある。主人公の少女が異性に心揺れ動く様や、苦痛しか感じれない心の内の痛みなどはひしひしと伝わってくる。このへんは主演のキム・ファンヒに助けられているなと。心の内を表現するのが上手い子だ。『コクソン』で悪霊に憑依された狂った演技のあの子が、本作では内気で純粋な少女をみずみずしく演じている。等身大のかわいさに溢れており、本作では真逆の人気を得そうだ。
わざとらしい演出で損をしてるとは思うが、全体的に役者の演技は下手ではなく、それがない分鑑賞は苦痛ではなかった。

いじめは世界中で起こっている問題。まだ幼い子供だけでなく、大人になってもあるのだから人間の本質なのかもしれない。こうして客観的に見せられると、どれだけ相手の心を踏みにじる残酷な行為であるかが理解できる。本作を残念な出来とは言ったが、そこに対しての本作の意義は十分にある。本作の鑑賞を機に、いじめに対する認識を改める人が大勢出てくれることを切に願う。また、いじめなどで苦しんでいる人への助けにもなる作品である。死ぬ前に、大切な人への遺書を書く。やり残したやりたいことをする。それらを行うことで考え方や物事の見え方も変わってくる。人生で躊躇していたことも、もう死ぬんだったら何でも出来るだろと。確かにそうだ。もしそれで本当に満足して死ぬことが本望と思えるなら、未練を残して死ぬよりも何倍も良い。死ぬ前の準備をするという行為が目から鱗だったが、心の救済ってこういうことなんだなと思えた。


やっぱり心に響く作品だとレビューを書きながらそう思う。本作で救われるという人もたくさんいるはず。誰かの心を救う、そんな作品だ。
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