カルダモン

THE GUILTY/ギルティのカルダモンのレビュー・感想・評価

THE GUILTY/ギルティ(2018年製作の映画)
4.4
〈音と声〉を見る、という体験。
この映画でスクリーンに映るのは緊急通報指令室の様子と警察官のアスガーだけであり、動きの要素は電話口の向こうから聞こえる〈音と声〉から浮かびあがる脳内映像がすべて。

受け手によって見える映像は三者三様、百人百様。電話口から聞こえる声や音から浮かぶ情景は鮮やかに、しかし同時にあやふやな臨場感がとても奇妙な映画体験だった。聴こえてくる音の範囲も細かく設計されて、アスガーの感情とリンクさせる演出など見所&聞き所は多い。
この感覚で最も身近なのは読書で、文字を読み何を想像するのかという感覚によく似ている。

監督のグスタフ・モーラー(作曲家みたいな名前、)が狙ったのはまさにそういった人間の想像力を扱ったものだそうで、おそらくは映像で直接的に描くよりも、電話口を通して間接的に伝わる方がより生々しさや怖ろしさが増すのだろう。人のイマジネーションが見えないものを感じ取るのは危機察知が高いためなのかもしれない。

これまでの映画史でも電話は重要な小道具としてしばしば登場するけれど、ここまで聴覚を通して想像させることに特化した映画はあったのだろうか。

つい構造の話になりがちだが、『ギルティ』が頭一つ抜けてると思うのは、音に集中させながらも映像が疎かになっていない点で、ラジオドラマではなく映画として成立していることだった。
アスガーの表情の変化、仕草の変化、モニター情報、隣のデスクで働く同僚との関係性など、電話のこちら側でも同時に語られていることがとても大事だったりする。

実はドッシリとしてる物語はギミック先行にありがちな脚本の薄さも感じることなく、むしろ終盤でタイトル『ギルティ』の色味が増す展開は強力。

劇中の時間もリアルタイムに進行するノンストップミステリー。当然、音に集中できる劇場鑑賞がオススメ