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斬、のryacのレビュー・感想・評価

斬、(2018年製作の映画)
4.4
刃物怖っ!暴力怖っ!人間怖っ!

ある種ワンシチュエーションものの範疇に入るのかな。登場人物は必要最低限のみ、場面の移動はほぼなし。
池松壮亮演じる主人公の葛藤、それを取り巻く周囲の人々のみにあえて焦点を絞った作品。
登場人物の台詞が普通に現代的だったり、デジタル感を露骨に感じさせる画面の印象など、一見リアリティを損なってしまいそうな演出が妙な具合に作風の不穏な印象を引き立てていて、より良いものにさせていた。流石は塚本映画。

『鉄男』的なメタルパーカッションのBGMをはじめとして、木剣同士がぶつかり合う音、打撃音などの音演出が凄い。
なにより刀を握ったときのギチギチギチ……って感じの金属音に掻き立てられる緊張感が半端なくて、今の時代でも全く新鮮な殺陣のシーンを撮れるんだと感心。
ある意味ファンタジックだったり、スタイリッシュに描かれることも多い刀(そういうのも大好きだけど)を、あくまで徹底的に殺人のための道具として扱う本作。切られたあとの傷跡を明確にはっきりと映すことで、よりそれの痛ましさが強調されていた。

ゴロツキとのやり取りとその後の顛末は主人公に感情移入していると本当に不憫。あまりのいたたまれなさ、やるせなさに胸が痛む……
暴力の連鎖を断ち切ろうにもそう上手くいかない、現代の寓話ともとれるテーマを感じた。

80分の映画なのに視覚的にも精神的にも魂をゴリゴリ削られるような……めちゃくちゃパワーを感じる作品でした。
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