ハル奮闘篇

さよならくちびるのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

さよならくちびる(2019年製作の映画)
4.5
【 青春をともに歩いた歌手は だれですか 】

 音楽業界の片隅で生きる三人の男女の、全国ツアーの物語。
 インディーズの女性デュオ「ハルレオ」はハル(門脇麦)とレオ(小松菜奈)、そしてローディーのシマ(成田凌)の三人でライブ活動をしている。
 ハルとレオは倦怠期。冒頭から「これから始まる地方都市のツアーを終えたら解散しよう」、そう話して旅に出る。三重、大阪、新潟、山形、青森。

 回想シーン。人見知りだが、歌で心情を表現する曲作りの才能をもつハル。彼女はバイト先でふてくされていたレオを誘う。あてのなかったレオは、二人で暮らしながらハルにギターを教わり、デュオとして活動。やがて小さいライブハウスをうめるほどの人気を獲得していくが。

 才能あるハルに対するレオの嫉妬、自己嫌悪。 裏腹にレオに惹かれるハル。そこにシマが絡んで、三人の関係が複雑なものになっていく。 

 劇中、ハルレオの持ち歌として披露される3曲を提供したのは、秦基博とあいみょん。
 オフではろくに口もきかない二人だけど、ステージにあがれば息がぴったりあって、ファンを魅了する。
 ハルもレオも不器用な女の子だから、全編を通じて台詞が少ないけれど、そのぶん二人の想いを託した歌がとても雄弁。
 恋愛模様も描かれるけれど、同時に、三人がバンドとして活動していく喜び、誰かと繋がって生きていく喜びも描かれている。

 そして、三人はラストライブの函館へ。果たして…!?

 ところで、僕の忘れられないシーン。
 なんと、そこに三人は登場しません!
 この映画、各地方都市で迎えるファンたちの描き方が秀逸なんです。

 開演前、それとも終演後なのか、小さいライブハウスの前に数十人のファンが並んでいる。
 そこにネットかローカルテレビ番組かのスタッフが来て、若い女性ファンたちにカメラを向ける。
 彼女たちはカメラに向かって、感極まって目に涙を浮かべながら、「本当に…ハルレオの歌詞は…なんで私の気持ちがこんなにわかるんだろうっていうくらいです」「もう心に刺さって…また明日も頑張ってみよう、って思えるんですよね」みたいことを語る。いいシーン。

 そのファンの中に一組、それらとは違う種類の反応を示す女子高生二人組がいる。彼女たち二人は、何も語らず、囁くような涙声で歌う。
「♪さよならくちびる 私はいま誰に 別れを告げるの 君を見つめながら」。そしてただ泣いている。

 映画館で、涙腺が決壊した。
 それだけの描写で、思春期の悩み多き彼女たちの毎日をハルレオの歌が支えている、ということがリアルに伝わってくるからだ。
 このシーンを見た瞬間、十八、十九、二十歳の頃、やはり僕がたくさんの歌に支えられて生きていたことをありありと思い出した。


 さて。僕の場合は、同い年の尾崎豊でした。
 1枚目のアルバムに入っている「僕が僕であるために」、2枚目の「シェリー」。
 恥ずかしながら「これはオレの歌だ」と思って、LPレコードにあわせて歌いながら、ポロポロ泣いていたことを数十年ぶりに思い出しました。

♪シェリー いつになれば 俺は這い上がれるだろう
 シェリー どこに行けば 俺はたどり着けるだろう

 まぁ、自意識の強い若者の歌ですね、今聴けば。
 でもね、大好き。
 あ、今はね、あいみょんです!

 あなたが青春をともに歩いた歌手はだれですか。