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海獣の子供のrayconteのレビュー・感想・評価

海獣の子供(2018年製作の映画)
5.0
地球上の海の面積は71%で、人が住む場所は3割ほど。
人類は世界のほとんどを理解していないと言える。知らないことばかりの世界を、僕らは生きている。

物語は少女ルカが、ジュゴンに育てられ、海洋生物と似た生態を持つ不思議な少年ウミと出会う所から始まる。

五十嵐大介作品特有のラフ(を意図して残した)なペンタッチは、漫画という静止状態かつ平面での表現に最適化された技法であるだけに、スタジオ4℃の立体性とどう噛み合うか楽しみな反面不安もあった。
だがどっこい、こいつが完璧!
五十嵐大介の線が、グリグリ動く!街が、景色が、海が、宇宙が、これでもかと広がり、完璧な調和を見せる。
CGと線画の調和という点では、これまで生み出されたアニメ作品の中では世界一なんじゃないか。

さらに素晴らしいのは、作品の主題となる環の表現。
宇宙、空、海。わたし、あなた、新しい生命。
すべてが繋がるという世界の理を、映像でもって完璧に表現している。一瞬たりとも言葉での説明に逃げないため、全く物語の意味が理解できない人もいるだろう。
だが、この作品はそれを恐れない。絵の力を信じ、絵で我々に語る。
僕が感動するのはつまり、作り手が観る人間の力を信じてくれているからに他ならない。彼らは僕らを見くびらず、僕らをないがしろにせず、僕らを信じる彼らを信じている僕らのことを決して忘れず真摯に熱意を持って命を削り、クリエーションを届けてくれたからだ。
映画を好きでよかった、映画も僕を見てくれていたのだと、たまらなく嬉しくなる。
恋だって愛だって同じだ。人の本当の喜びは、自分と他者や外界が調和できた瞬間なのだから。
こんな傑作には、一生のうちに数えるほどしか出会えない。

脚本で映画を判断する人間は、理解に苦しむ作品かもしれない。だが、一度観てもらえれば、必ず表現意欲の熱量と真っ直ぐさに圧倒されるはず。それこそつまり感動の正体であり、その時あなたは新たな領域の感動を手に入れたのだ。
知らない種類の物だからダメ、ではなく、知らないものを知った、見れたことこそが、映画がくれたギフトだと知ってほしい。
ただの暇つぶしじゃない映画を観ることの本当の意義が、この作品は詰まっている。

人類は30%しか世界を知らない。残りの70%を拓けば、それまでの常識を覆す新たな世界の理が姿を現わすかもしれない。
言葉で表現できない領域にきっと、未知の価値観や感動がある。この映画はその示唆と、ひとつの答えに辿り着いている。
これほど誰かに伝えたいと思った作品は生まれて初めてだ。
けれど、本当に大事なことは言葉じゃ伝わらない。
是非その目で、見てほしい。
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