アニマル泉

彼女はひとりのアニマル泉のレビュー・感想・評価

彼女はひとり(2018年製作の映画)
4.2
中川奈月の立教大学大学院修了製作作品。
飛び降り自殺が通奏低音になっている。当然「高さ」が主題になるのだが、本作は「高さ」を撮れていない。冒頭から橋に佇む澄子(福永朱梨)を俯瞰で人物ごしの川バックで撮っている、しかしバックが水面なので平面的になってしまい、高さが描けない、怖くないのだ。さらに人物が画面からフレームアウトで飛び降りを表現する。黒沢清の「神田川淫乱戦争」のラストカットの悪影響ではないか?高さを強調するには橋は下から撮るべきだ。しかしそもそも橋が低い、これで自殺出来るのだろうか?
さらに「距離感」がつまらない、スリルがない。人物同士の距離感やステージングで芝居の温度や空気感が生まれる。本作のようなサスペンスでは距離感は生命線になる。お互いの距離が詰まったり離れたりしながらいつゼロになるか?つまり触れあうというクライマックスをどう作るかが腕の見せどころだ。本作は抱き合う場面が4回ある。澄子と父(山中アラタ)、秀明(金井浩人)と波多野先生(美知枝)、澄子と秀明、澄子と波多野先生だ。それぞれが重要な芝居場になる。クライマックスの澄子と秀明の場面は、福永朱莉の狂い方が凄かった。本作の白眉である。しかし他の3つの場面は物足りない。官能や様々な感情が噴出しない。肝心なのは澄子と秀明と聡子(中村優里)の関係で、中川監督はパンフによれば澄子と秀明の恋愛感情ははっきり否定したかったというがどうもそう見えないし、澄子と聡子は同性愛的な感じもする。「嫌いが好き」であり、好きな人をいじめてしまう物語だ。三人の濃厚な感情、澄子と父の感情は深掘りして欲しい。
橋、河原、階段、廊下、屋上が頻繁に描かれる。男たちは底辺の河原にぐだぐだして上を見上げるばかりだ。屋上に登れるのは女たちだけだ。ラストも女三人である。澄子と聡子は判る、しかし波多野先生がこの濃密な二人に割って入るのは強引に思えた。聡子が見えるのは澄子と秀明だけだ。ラストがこれでいいのか?疑問が残る。
「密告」がテーマになっている。
「亡霊」は本作の主題だ。冒頭、ガラスの映り込みに母の亡霊が現れる。教室に現れる聡子の亡霊は失敗だろう。ロングの客観ショットで描いたのはミスだ。ちゃちくなる。
福永朱莉が好演。他の役者が下手。
撮影は芹澤明子。ビスタサイズ。
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