よう

この世界の(さらにいくつもの)片隅にのようのレビュー・感想・評価

4.0
観よう観ようと思いつつ後回しになってた作品。
オリジナル版は鑑賞済み。原作漫画も読んでいる。ちなみに、連ドラ版も視聴済み。

オリジナル版にシーンをいくつか追加したもの。


オリジナル版は、戦争というものを戦場や兵士から遠くかけ離れた存在である主人公の日常を通して描いた傑作だと思ってる。
ありふれた、けっこうコミカルな日々の営みがいかに大事かを思い知る作品。
おそろしくのんびりしてる主人公で、なおかつ実写ではないアニメ、特にふんわりした色調のアニメ作品ってのも大きい。逆説的アプローチというか、『プライベート・ライアン』と正反対アプローチでも充分戦争は描けるってことでもある。
あと、少女から大人へ、広島から呉へ嫁いだ主人公すずさんの居場所探しという面もあって、そこは人間ドラマとして普通に面白い。


でもって、今作。

追加シーンの主なものはリンさんのあたり。
リンさんの存在は、匂わし程度だったオリジナル版よりもわかりやすくなってる。
あわせて伯母さん夫婦のやり取りも足されていて、それにより周作の過去がハッキリして、すずさんの嫁入りそのものにビターさが加わっている。
そのことで、すずさんの居場所さがしの面がグッと深い味わいになってる。

あと、テルさんのエピソードも追加。

ここらへん、全体的に、物語の大人っぽさが増した感じ。


他には、終戦後の台風のシーンなどの追加だったり、いろいろディテールが足されていたりがあると思う。
周作のお父さんが、戦闘機の細かいメカニックなことを言う台詞も足されているっぽいんよね。
片渕須直監督は、女性側の物語だけでなく、男性側の描写も足したかったよう。
個人的には、そこはないほうがよかったような気もする。生活者の視点以外は足さないほうが作りとしてはいいと思うので。まあ、海軍の工廠技師の生活の一部ではあるとも言えるけどね。
あと、序盤の水原が髪を引っ張るシーンも、別になくていいかなと。


※ちなみに、オリジナル版とも共通の、終戦直後のすずさんの台詞が原作と違う点について。
議論が起こったようで。
日本の植民地支配を示唆するという意味では、たしかに原作の台詞のほうが端的でわかりやすいとは思う。
けど、植民地支配していた国の米を台詞に入れた映画版の台詞のほうが、より生活者視点が強調されるので、映画全体としてはいい改変だと思ってる。


オリジナル版のほうがいいとは思うけど、これ観るとリンさんの補足はオリジナルに欠けている箇所に思えてくる。
まあ、長尺になってもいい作品には変わらないのは確か。
よう

よう