アカデミー賞ノミネート作品ということで鑑賞。
脚本監督のコード・ジェファーソン、これが長編デビュー。
おそらく評判の高さがなければ観てないかも、な作品。
売れない作家が〈世間が求める黒人像〉だらけの小説を書いたらヒットしちゃう話。
そのマイノリティのステレオタイプなものを求めてしまう浅はかさを皮肉っている。
アフリカ系アメリカ人は貧困で、ラップ歌って、警察に殺される……そんなの一部だろうが! っていう。
そもそもこの主人公は、医者家族に生まれ育ってて裕福な生活をしてきたようだし、教養も高いインテリなんよ。
これ、ただ単に「多様性やポリコレを皮肉る」とは違うのよね。多様性やポリコレの中に、ともすれば忍び込みがちな、ステレオタイプ欲求を皮肉っているって感じかな。
冒頭のくだりは、やり方としてはひどいけど、主人公としては「わかったようなことぬかしてんじゃねえ」的なことかもね。
人種以外にもセクシャリティだったり、障害者だったり、マイノリティは様々ある。
マイノリティを例えば映画でフィーチャーするって時に、そのマイノリティならではの問題を描くのもやり方の一つではあるのだけど、そればっかりってのも変なわけで。
シャマランの『ノック』で、ゲイカップルの被差別者のとこを強調してたのは「今のバランスじゃないよなあ」と思ったことなど、いろいろ想起しちゃった。
コメディだから笑えるところもあるのだけど、鑑賞中けっこういろいろ考えてしまった。
小説の賞の選考会議のくだりで3対2の多数決になるのとかは、「結局そっち優位じゃん」っていう。
実際にこういうこと多そうと思った。
ちなみに、あれ、男女比も……。
アメリカの本屋って実際にあんな感じで人種で棚が分けられてるのかなぁ。
ただ、売れてる本は目立つ所にあるからこそ……ってのは笑える。
売れてる黒人作家の存在が、主人公のあの本を書くきっかけの1つ。
あの朗読シーンはよかった。
朗読のチョイス、なんなん?笑
また、それを聴いてる主人公の絶妙な呆れ顔。
で、その主人公にかぶさるように拍手する人が立つ。ベタだけどナイス。
あの映画監督とのくだりもよかった。
そういや、エンディング近くのシーンでアジア系が文句言われるくだりは、あれもステレオタイプってことなのかなあ。
缶の結露で文句言われるってどういうこと?
あの本があんなに売れるかな?とか、さすがに指名手配中であんなテレビに出たりするの?とか、「これはどこまでありえないことなのか?」と考えちゃって、ほんのりノイズにはなった。
人種問題皮肉的コメディのなかにある、ちょいと面倒くさいインテリ主人公による人間ドラマ的な味わいもある作品。
シニカルなコメディではあるのだけど、全体的なトーンとしてはシックな佇まい。
美術や衣装などは品が良くて、ジャジーな音楽をはじめ劇伴も小粋。
そこそこウェルメイド。
介護問題があって、家族ならではの過去の軋轢もあってって、作品テーマとはまるで関係ないようだけど、主人公にとってのリアルとはこっちだってことなんだろうね。