噛む力がまるでない

まったく同じ3人の他人/同じ遺伝子の3人の他人の噛む力がまるでないのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

 生まれてすぐ引き離された三つ子の奇跡的な再会を元に、「生まれか育ちか」の心理実験の倫理を問うドキュメンタリー映画である。

 ドラマチックな展開から徐々に実験にまつわる闇を明らかにし、前半のさまざまなアーカイブ映像を転倒させて見せる後半の演出は恐ろしい。いまだに実験の全容は明らかにならず、不気味な力の前への無力感が漂う。被験者や家族はもちろんエディの人生の結末を思うと、わたしも胸が痛い。もし彼らが幼いころから一緒に過ごしていれば少しは違っていたのかも……と考えてしまう。
 実験の全容や「生まれか育ちか」の優劣の明示はしないしできないが、とても重要なのは本来それぞれ当たり前にあるはずの人権を意識しましょうという部分にフォーカスを当てているところだと思う。実験に加担した人間や三つ子を持て囃した大勢の人間は彼らをひとつのパッケージのように見ていて、一人ひとり固有の性格があり人生があることをまるで無視している。これはほんとうに恐ろしいことだし、今の時代にはよりマッチする話だ。多層的な面のあるすこし難しい映画に思えるが、他人の人生をコントロールすることの意味を考えされられる普遍的な性質を持った内容だと思う。