エソラゴト

7月22日のエソラゴトのレビュー・感想・評価

7月22日(2018年製作の映画)
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『ジェイソン・ボーン』シリーズなどを手掛けてきたポール・グリーングラス監督。『ユナイテッド93』『キャプテン・フィリップス』などの実話を基にした作品をドキュメンタリータッチに描く事で評価も高い監督が今回描くのは、2011年にノルウェーの首都オスロの政府庁舎爆破事件とウトヤ島での銃乱射事件、どちらも同日の7月22日、同一犯によって起こされた連続テロ事件。

前述2作は全編通して事件の全容を追っていく内容でしたが、今作は全容だけでなく事件後の方に重点が置かれているのが特徴的です。

そしてどの作品にも共通しているのは、犯人、被害者どちらか片方だけの偏った描写ではなく平等に均等にそれぞれの立場や状況に時間を割くことで事件の全体像を多角的に克明に映し出している点です。

ただこの事件に関しては、犯人自身がテロ実行後にすぐさま投降し法廷で証言する事で自らの政治思想の主張やプロバガンダを目的としていた為、取り調べや法廷劇の場面は非常にデリケートで難しい"諸刃の剣"な部分でもあります。そのため、その辺りの折り合いをどう付けるのかがこの監督の手腕に掛かっているとも言えます。

テロ犯に指名された人権弁護士、遺族、一命を取り止めた被害者とその家族…それぞれの苦悩はストーリーが進むに連れて重く重く心にのしかかってきます。しかし絶望感だけが終始漂う作品ではなく、先日鑑賞した『判決、ふたつの希望』と同様に非常に困難な問題ではあるけれども悲観してばかりではいられない、前へ向いて進まなければならない…未来への光明や兆しを感じ取れる作品でありました。

また今作舞台のノルウェーでは死刑制度は遠い昔に廃止されている為、このテロ犯には禁錮21年の刑が言い渡されています。(やはり死刑制度復活の議論もなされたようです)またこのテロ犯の犯行理由の原点としての移民排斥問題も現在進行形の全世界的な課題でもあります。

作品自体から知り得ること、そして鑑賞後にも自ら調べることで知らなかった事実や背景を知ること…映画から学ぶ部分は非常に大きいし意義深いものであることを今更ながらここ何作かで実感しています。