エソラゴト

ROMA/ローマのエソラゴトのレビュー・感想・評価

ROMA/ローマ(2018年製作の映画)
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アルフォンソ・キュアロン監督の自伝的作品ということで1970年代のメキシコが舞台(メキシコにあるローマという地名だそうです…パリ、テキサス的な感じ?)となっており、ある中流家庭とそこに雇われた家政婦との交流が物語の主軸となっています。

前作『ゼロ・グラビティ』を撮り終えた後、次作はシンプルな作品を撮りたかったと監督自身が語る通り、モノクロで劇伴もなくストーリー自体も淡々と進んでいきます。

しかしながら、画面に映し出される映像はとても美しくてモノクロなのに色鮮やか。カメラのスローな横移動の多用でパノラマ写真を見ている感覚にも似ている為、それだけで時間が経つのを忘れるくらい観入ってしまいました。(また驚きなのは撮影は『トゥモロー・ワールド』『ゼロ・グラビティ』 の2作品を撮った盟友のエマニュエル・ルベツキではなく監督本人だという事)

もう一点特筆すべき点は、音。鳥の囀り、犬の鳴き声、鐘の音、車のクラクション、飛行機のジェット音、その他暮らしの中で奏でられる雑音・生活音が劇伴としてきちんと機能していました。

ネット配信作品という事でタブレットとヘッドホンでの鑑賞となりましたが、そういった鑑賞方法でも全く遜色のないまた耐え得る稀有な作品だと感じました。(勿論、劇場でも観たいとは思いますが)

キュアロン監督お得意の長回しも随所に散りばめられてはいますが、特に終盤の海辺のシーン…これがもうハラハラドキドキ。しかしそれがきちんと胸熱ポイントになっているところは流石。

前回『ヘレディタリー/継承』の時も感じましたが、今年は特にファミリー物を多く観た気がします。特に印象に残るのは前半は邦画の『万引き家族』後半はここに来てこの『ROMA/ローマ』でしょうか。



そして2回目の鑑賞は劇場で…。


鑑賞日:2019.3.19
劇場:イオンシネマ シアタス調布

昨年中にNetflixで鑑賞、昨年の個人的ベスト映画の1本にも選んだ作品でしたが、アカデミー賞効果もあり劇場で上映されるという事で足を運んでみました。

イオンシネマ独自の大型スクリーンと立体音響システムdts-Xを擁した「ULTIRA」での鑑賞は徹頭徹尾、五感を猛烈に刺激してくれました。

特に聴覚。様々な生活音・雑音の重なりが身体全体を包み込むような音響空間…でもこれは我々が普段から送っているいつもの"日常"空間ー。劇場という非日常の閉鎖空間の中で自然のままに描き出された"日常"を疑似体験することで、その何ともない他愛もない"日常"の素晴らしさ・尊さと共に一瞬一瞬の儚さというものを改めて気付かせてくれました。

そしてキュアロン監督の自伝的作品ということもあり、物語全体を通して自分の幼少期の頃を思い出させてくれるどこか懐かしい感覚と、主人公クレオのようないつも陰に陽に見守ってくれていた親を含め大人達が周りには沢山いた事への感謝の気持ちも湧いてきました。


今回のようなネット配信で既に鑑賞済みの作品を映画館で再度鑑賞するという体験は初めてでしたが、Apple社も動画配信サービスに参入し近々オリジナルコンテンツを製作するとの事なので、こういったネット配信→劇場で上映という形態は今後も益々増えていくような気がします。

また今回アカデミー賞の作品賞には選ばれませんでしたが、外国語映画の範疇と共に配信作品に対して今後どういった線引きがなされるのか、逆にそういった枠を取っ払ってしまうのか…今作はそういった意味で業界的にも我々視聴する側にとってもエポックメイキング的な作品になったと言えます。

今回急遽公開が決まった事や公開館数の少なさなどからパンフレットが製作されなかったのが非常に残念です。どこから切り取っても絵になるような映像美だったので、スチール写真として手元で見たかったのが正直なところです…。(写真集もあるようなのですが割とかなりお高めのようでどうしても手が出ません)