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ラストレターのtetsuのレビュー・感想・評価

ラストレター(2020年製作の映画)
5.0
監督の過去作を予習して鑑賞。

亡くなった姉に代わり、同窓会に参加することを決めた裕里。
彼女の死を告げるつもりが言い出すことができず、帰ろうとした彼女の元に、姉に思いを寄せていた裕里の初恋の人・鏡史郎が現れる。
その日を境に手紙を送り始める鏡史郎だったが、裕里の娘・颯香と亡き姉の娘・鮎美は手紙を発見してしまい...。

映画ファンなどの評判が良く、岩井俊二版アベンジャーズという呼び声も聞いていたので、『LoveLetter』と初期短編を鑑賞して臨んだのですが、控えめにいって最高でした...。
監督の過去作におけるクセのある部分を極力まで抑え、美しい物語を描いた本作は、もはやコンプリートベストとも言える完成度。
「正直、岩井監督、もう映画作れなくなるんじゃ...。」と思うレベルの傑作でした。

というわけで、今回は本作の良かったところを4点に分けて、ご紹介。

[役者陣の名演]
なんといっても、素晴らしいのは役者陣の絶妙な配役と見事な名演。
もはや演技をしていない庵野秀明役、庵野秀明さんはもちろん、
主演を務めた松たか子さんは年齢を重ねているといえど、初恋の相手に恋をする女性として、未だかつてないほどの可愛さが滲み出ていましたし、
華麗なナンパシーンに嫉妬さえ覚えた福山雅治さんは、過去の幻想に囚われ続ける男として、新境地を切り開いていました。
そして、とりわけ素晴らしかったのは、影がある役を演じるとピカイチな広瀬すずさんと、透明感のある演技に尊さしか感じない森七菜さんといった二人の若手女優。
正直、この二人が会話をしているだけで永遠に見ていられるほどの魅力を感じました。
(また、個人的には、福山雅治さんと広瀬すずさんが久々に『三度目の殺人』コンビで共演しているのも嬉しかったです。)

[演出]
岩井美学とも称される美しい映像はもちろん、ドキュメンタリーの様に自然な会話と、そこから生まれる独特の空気感には、ずっと見ていたいほどの心地よさがありました。
また、音楽を止め、その時の空気感を意識させるセリフであったり、置き時計と心臓の鼓動が不思議と重なっているように感じる部分など、自然と感情に訴えかける演出が多く、その点が、とても好みでした。


この先、ネタバレ注意
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[過去作との関連]
本作のタイトルは監督の長編映画デビュー作『LoveLetter』を踏まえたもの。
そのため、劇中には、そちらを意識させる部分が多々ありました。
序盤のテロップに、多用される俯瞰ショット、舞台となる図書室や文通といった要素に、現代と過去が交錯して描かれる物語構造などなど。
さらには、1対1だった文通のやりとりを複数の人々が関わるものへと発展させた展開は、過去作から進化した部分と言える一方、物語自体は複雑化していないのも秀逸でした。
また、子供たちやプール、線香花火といった描写、なり得たかもしれない過去に思いを馳せる"ifとしての物語"という点では、『打上げ花火...』を思い出す作品でもありました。

[物語のテーマ]
特に「故人について書くことで、人々の心にその存在を生き続けさせる」というテーマは、共感する部分が多く、深く心に刺さりました。
また、主人公たちと対立する立場で過去作の名優二人を登場させた点には、若干、過去の自分への対抗意識を感じましたし、
主人公が「過去に囚われながらも、自分の小説に救われた存在を知ることで、再び執筆することを決める」という部分には、かなり監督自身が重なるようにも感じました。
これまで、数々の名作を生んできた監督だからこそ、新作へのプレッシャーはあるはず。
しかし、自身がかつて作り出した作品によって救われた人がいること、それを知ることが、監督自身の原動力にも繋がっているのだろうなぁとも感じました。


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というわけで、
監督の長編デビュー作『LoveLetter』を踏まえて作られたという本作。
鑑賞後には、本作そのものが『LoveLetter』に対する監督自身のラブレターだったようにも感じる岩井作品の集大成となった名作でした。

参考
村松 健太郎 さんの『ラストレター』短評 - シネマトゥデイ
https://www.cinematoday.jp/review/7044
(「岩井俊二版アベンジャーズ」は草。)

リトルレター|KITKAT(キットカット)
https://nestle.jp/brand/kit/juken2020/little-letter/
(松たか子さんが出演してたら、最高だったんですけどね...。)
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