もものけ

チャイルド・マリッジ 掠奪された花嫁のもものけのネタバレレビュー・内容・結末

3.0

このレビューはネタバレを含みます

エチオピアの貧しい村に住むヒルトは14歳の勉学に励む少女。
ある日、学校の帰り道に複数の男達に拐われて監禁されてしまう。
暴行され男に嫁にすると言われるが、ヒルトはすきを見て逃げ出し、銃で男を撃ち殺してしまう。
その男は、ヒルトの親が決めた許嫁であり、その村には"略奪婚"と呼ばれる習慣だった…。






感想。
この作品に心をうたれ、女性への社会問題を扱った作品へ興味のある方は、セネガル国の作品「母たちの村」も鑑賞してもらいたいです。
世界中で因習とされる"纏足""略奪婚"に並ぶ"割礼"を扱った非人道的人権侵害を訴える作品でございます。

アフリカは、教育水準が低く、古くから伝わる伝統のみで生活している地域です。
そして古くから"女性"は、子を産む"器"であり、頭など必要ではなく身体だけが神から与えられたものであり、それは"男性"の"所有物"であるとされてきました。
女性の人権が問題視されフェミニストと呼ばれる過激な思想を持つ極端さが活動する現代では、発展途上国以外では女性の人権は過剰なまでに重要視されておりますが、それはこの作品にあるような、あまりにも非人道的な行為がまかり通っていたから人権を守る為に過剰な思想になっているのかと思います。
そのフェミニストの思想を知るキッカケになるのではないかという作品でもありました。
極端なフェミニストでもあるアンジェリーナ・ジョリーが製作になるなど、やや偏った描き方に感じましたが、それを上回るほどの異次元世界に驚嘆する内容が、未だに未開の土地として地球上に存在している恐ろしさを感じさせます。

教育水準を低くすることは、伝統と習慣で人々を感化させて統制をとる手段として効果的でございます。
ここに宗教を用いて信仰で固めると、もはや誰も声を上げることすら考えなくなります。
こういった作品が多い現代で鑑賞すると考えることは、女性を"所有物"としている伝統は、男性として一家を守り養ってゆくという"義務"でもあることです。
教育されずにそれが伝統であると思えば、一家の一員として嫌々ながらも平穏な生活として諦めて、それが習わしであると次の世代へ教えさえしてしまいます。
果たしてそれは良かったことなのかは誰も分かりません。

この作品で一番恐ろしさを感じたことは、ヒルトに"戸籍"がないことで年齢すら見た目でしか判断しない世界です。
"戸籍"がないということは、"人権"が存在しないことに直結します。
発育が良いというだけで妊娠させ、未熟な身体で出産に耐え切れずに死んでしまうケースすらあります。
そしてそれを管理する司法、医療機関の人間全てが"男性"です。
これが作品で最も表現したかったであろう男性至上主義の社会構図ではないでしょうか。

それは村の習わしにも現れており、"略奪婚"により暴行を加えて監禁し、レイプをすることよりも、逆らった"女性"が相手を殺すことが重く"死刑"にあたることです。
その他のイスラム教諸国やカースト制度の国でも問題とされているテーマです。
これらは"女性"を"物"としか考えていない、教育水準が低いゆえの文化に起こる非人道的人権侵害ではないでしょうか。

作品では洗礼という言葉が登場しているので、キリスト教の信仰がある土地なのでしょうか?
エチオピアも宗教としては最も多いキリスト教徒の土地ですが、全く聖書の説いてる内容を理解していない"略奪婚"の文化には、宗教の無意味さが現れております。
しかし、キリスト教国でもあるイタリアは始祖であるロムルスとレムスが、ローマ人として地域の女性達を"略奪婚"しており、どの地域でも古くからはそういった文化があるように思います。

こういった視点から作品を鑑賞していると、まだ幼い少女でもあるヒルトに起きた悲劇が、伝統として割り切る文化なのか、非人道的人権侵害なのか悩ましくも感じるものがあります。
あきらかに言えることは"因習"であるということだけです。

エチオピアの現状も訴えるようなシーンが、こういった因習を引き継ぐエピソードであるように見えます。
土壁で薪で火を炊く暗い我が家に帰りたいというヒルトですが、弁護士の都会の家も車も中古品のオンパレードで、ガスこそ引いてますがマッチで灯し、ボロボロの浴室など貧しい国を表しております。

ハリウッド的な展開で観やすい作品ではありますが、徹底的に男性を悪者として描き、対立する女性としての極端な演出が、ヒルトの悲劇を薄めてしまってフェミニストのパフォーマンスのように安っぽくなってしまっているのが残念です。

ただ、ヒルトのような少女が残酷にもレイプされる生々しいシーンをカットしているのは、鑑賞に耐えられなくならないので評価できると思います。
ニュアンスだけで十分伝わるので、まるでポルノのように生々しく描くことが表現とは思えない個人的な感想です。

女性の人権侵害を訴える作品としては、それなりに良かったので、3点を付けさせていただきました。

ラストで、"略奪婚"へ刑罰が与えられ、ヒルトも活動しているなど、エチオピアの希望を灯すエピソードが唯一の救いでしょうか。
もものけ

もものけ