あんがすざろっく

グリーンブックのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
4.5
TLが凄いことになってますね‼︎アカデミー賞の後に公開という絶好のタイミング。最初は観る予定なかったんですけどね…。でもこの絶賛の嵐の前では、やっぱり見逃せなくなってしまった(笑)。

それにしても、まさかピーター・ファレリーがアカデミー賞を受賞する日が来るとは‼︎「メリーに首ったけ」の時は思いもしなかったことです。あの作品もキャメロン・ディアスだから見れた訳ですが、下ネタ満載で彼女と見たらちょっと笑うに笑えない(笑)。好きですけどね。他の作品見てないですけど、恐らく監督は下ネタギャグ路線まっしぐらだったはずですよね。
それがここにきてどうしたんですかね?

そう考えた時、ファレリー監督が「メリー〜」で話してたことを思い出したんですよ。
「メリー〜」の中で、ディアスには弟がいて、障害をもってるんです。
その弟をも、ファレリー監督は笑いのネタにする。
この描き方に監督は持論を持ってます。
障害児だからって、特別扱いをするつもりはない。健常者も障害児も、平等に描く、と。
確かそんなコメントをしていました。
その特別扱いが、逆に差別になるという訳です。

なるほど、その頃から確かに、ファレリー監督は、差別というものに、強い反発と意識があったのかも知れません。
それを加味すれば、本作のテーマに落ち着いたのは至極納得です。


ここから多分にネタバレあります。
やっぱりねぇ、ネタバレ無しでレビュー書くのは難しいですよ(笑)。











1960年代、黒人差別の強かったアメリカ南部。
ここを天才ピアニスト、ドクター・“ドン”・シャーリーがツアーで回ることになる。
高潔な精神と教養を持つも、しかしながら彼は黒人。
ツアーを敢行するには、運転手が必要だ。しかも厄介なトラブルも解決できる、腕っ節のいい用心棒。
トニー・リップは、最適な人物だった。
粗野で喧嘩っ早いイタリア人だが、家族を心から愛している。
仕事にあぶれていたトニーを、ドンは雇うことに。
問題は、二カ月に及ぶツアーの為、トニーは長い間家族と離れ離れになる。
また、トニー自身も少なからず人種差別意識がある為、この主従関係はうまくいかないのではないか。
周りの心配をよそに、二人はツアーに出発する。
トニーは妻ドロレスに、旅先から手紙を書く約束をして。

最初は思った通り、二人の考えは食い違ってばかり。
人種の違い、生活階級の違い。ドンは雇い主で、トニーは雇われる側だ。
ドンもトニーを側に置いている以上、きちんとした話し方や社交性を身につけてもらいたいが、トニーの性格から、必ずしもドンに忠実にはならない。

ドンは人間としての教養を、トニーに伝授していく。
やがてトニーもそれを受け入れていくのだが、現実社会の厳しさを知っているのは、ドンよりも数倍上だった。
持ちつ持たれつ。ギブアンドテイク。
トニーは次第に耐えることを覚え、ドンは社会のルールを教わる。

色んなエピソードがあるけれど、印象深いのはフライドチキンの話。
ここでトニーとドンの距離が縮まるんですが、その後このエピソードが功を奏します。
トニーがいなかったら、ドンは困っていたでしょうね。
翡翠石のエピソードも味があります。それが最後まで効いてくる。

一人夜の街を出歩き、ドンが警察に捕まるエピソード。
トニーにも知られたくなかったドンのもう一つの姿。
ドンは自分を恥じるのですが、トニーは「俺はクラブで色んな人間を見てきた。人間ってのは複雑だ」と、決してドンを見下さない。
いや、これが却ってドンも普通の人間だということをトニーに示したんじゃないでしょうか。

まだまだ素晴らしいエピソードがあるんですけどね、挙げたらキリがないので。

トニー役のヴィゴ・モーテンセンが良かった‼︎
変幻自在ですねぇ。
LOTRのアラゴルンが大好きですが、同じ人だと思えない(笑)。
ドン役のマハーシャラ・アリも素晴らしかったです。
孤高の天才を、仕草一つから表現します。
上流階級の演奏会での緊張感もさることながら、バーでの即興演奏での楽しそうなこと‼︎トニーとの旅で得た、新しい引き出しですね。
客人として招かれながら、それでも拭いきれない差別の壁に、ドンは耐え、彼なりの抵抗を試みます。
当時アレサ・フランクリンやナット・キング・コール、黒人ミュージシャンとして成功した人は多くいたはずなのに、彼らの音楽をもってしても、その壁は乗り越えられなかったのですかね…。
理不尽な怒りを覚えますね。

とは言え、本作はあくまでもバディ・ロードムービー。観終わると暖かい気持ちになれます。

そして、これも忘れてならないのが、音楽の素晴らしさ。
60年代のオールディーズやジャズサウンドを散りばめ、ドンとトニーの旅を彩ります。クリス・バワーズのスコアも最高。初めて聞いた作曲家ですね。サントラも大好きです。


同じロードムービーで、ユダヤの老婦人と黒人運転手の交流を描いた「ドライビングMissデイジー」が僕は大好きですが(ハンス・ジマーのスコアも素晴らしい)、こちらは円熟味のあるドラマだったのに対し、グリーンブックは若いエネルギーに溢れた作品。

何といってもラスト、ドンの姿を目にしたトニーの嬉しそうな表情が忘れられません。
それからドロレスがドンにかける言葉。お見通しだったんですね。それも如何にドロレスがトニー
のことを理解しているかの裏返し。奥さんには勝てないのです。ドロレスを演じたリンダ・カーデリーニの懐の深さも魅力的でした。

観終わったら、無性にKFC食べたくなりました‼︎
あんがすざろっく

あんがすざろっく