のん

華氏 119ののんのレビュー・感想・評価

華氏 119(2018年製作の映画)
4.3
希望なき米国の展望は


トランプの大統領就任時にあるニューヨーカーがテレビの取材にこう言っていた。


「トランプがアメリカを分断したのではない。アメリカが分断されていたから、トランプが誕生したのだ」


アメリカという国がウォール街に支配された現実を突きつけた「キャピタリズム マネーは踊る」は、オバマ政権の誕生による、アメリカ社会の変革への希望を示した映画だったが、果たしてその後の米国はどうだったか。



アメリカ社会の矛盾を突きつけるM・ムーアの最新ドキュメンタリーは、ドナルド・トランプがなぜ誕生したかに迫る見応えあるドキュメンタリー。



とはいっても、『華氏911』の時のように、大統領個人をこき下ろす内容ではない。


トランプ大統領は、偶発で生まれたのではなく、アメリカ社会のいくつもの要因が重なり、生まれるべくして生まれた。その一つ一つの要因を膨大な資料映像を編集し、2時間強で見せる。




一つの大きな要因は、メディアが泡沫候補の1人に過ぎなかったドナルド・トランプを、「視聴率が取れるから」と、囃し立て、そしてありとあらゆう言動を放置してきたという現実。



もう一つの大きな原因は、共和党と対立する民主党が、労働者から離れていったという現実。



国民生活はズタズタになり、それを変革したいと願い、オバマに投票した人たちの希望はこの間みごとなまでに打ち砕かれてきた。


その典型例と思われる、フロリダ州の水資源の問題は、水道の公営化やマイノリティーへの差別問題など、米国全体の問題を最も集約された形で劇中で提示される。




州にも政府にも見捨てられた人々は投票さえも放棄し、それがより生活を苦しめる政権を誕生させてしまうという凄まじいまでの負の循環。


M・ムーアのドキュメンタリーは、絶望的な状況のなかでも希望を提示するのがお約束だったように思うが、本作が示すアメリカの展望は暗く、そして希望がみえない。

ムーアは言う。


「これが現実だ。我々が生きている国だ」と。



2018年11月6日の中間選挙でこの現実は変わるのだろうか。
のん

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