10円様

ジョーカーの10円様のレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.1
現在どの方向に向かっているか分からなくなっているDCEU。もう無かった事にされそうになるプロジェクトであるが、それが決定的になるのではないかという傑作を観た。ジョーカーといえばこれまで主役を食うまでの存在感を放つDCきってのキャラクターなわけだが、今回は新たな解釈も元に作られていてる。ヒースレジャーが演じた衝撃的なジョーカーの記憶ばかりが蘇る中、ホアキンのジョーカーは我々に何を語りかけるのか。これがまた胸を抉られるジレンマであった。

アーサーフレックは社会的弱者でありまさに等身大の人間だった。母親の介護や持病と戦い、笑いを愛する優しい人間。憧れのコメディアンとの共演を妄想するただただ1人の人間。これに憐れみ共感しない人間がいるだろうか。徐々に狂気をまとって行く丁寧な演出もさることながら、やはりこの悲しみと狂気と行き場のない笑いを体現させたホアキンフェニックスの一人芝居は圧巻の一言に尽きる。

また本作の魅力というか異色なところはDC映画でありながらもその枠を大きく越えた作りであろう。本作にアクションシーンは無く、全編がアーサーの心理描写となっている。ジョーカーの残忍性を求めた人には肩透かしをくらうかもしれない。私もある程度の覚悟はして臨んだわけだがこれがグイグイ引き込まれてしまうのだ。
ジョーカーの話を職場の後輩としていた時、彼は「自分はジョーカーのあの無慈悲な悪魔的要素を観たいわけであり、なぜ誕生したのかは観たくない」と語ってくれた。確かにそうである。我々はあの悪のカリスマ性に惹かれたのであって、ジョーカーには無秩序と破壊を求めている。しかし事実この映画は正に無秩序と破壊であり、誰しもがジョーカーになり得るという怖さも孕んでいる。
ベネチアが本作を評価したのも頷けるほどの問題作だ。

賞レースが展開されるこの時期、ホアキンフェニックスはオスカーに一手をかけたところだろう。そろそろホアキンにもオスカーをあげても良い頃であるし、それがこの等身大のジョーカーなら感無量である。それに史上2人目のジョーカーがオスカー像を手にするところも是非見てみたい。
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