ジョーカーとは本当に悪のカリスマなのだろうか。私にはこの映画のアーサーが「カッコ悪いやつ」の典型にしか思えてならなかった。精神疾患、機能不全家族での生育歴、ウケないジョークを延々と披露する等など。惨めと言えばこれ以上ないほど……でも、逆に考えればジョーカーはそんな弱者のスティグマを身体中に刻み込まれた脆弱な存在だったからこそ、ゴッサム・シティの人々の怒り――それはもちろん、福祉が打ち切られ追い詰められていったアーサーの怒りでもあっただろう――を体現すべく「ジョーカー」として覚醒し変身出来たのではないかと思う。だから「ジョーカー」は同じ「ジョーカー」に扮した人々に支持され、かなりクサい言い方をすれば「弱者の連帯」としか呼びようのない事態を生み出したのかなと思った。だが、それで終わればただのメロドラマという可能性もあったわけで、この落とし方は賛否両論あるけれど私は苦肉の策として受け取った……が、エンドロールが終わった後、最後の最後でホアキン・フェニックスの高笑いをもう一度響かせてくれてたらとないものねだりを考える。『タクシードライバー』『ファイト・クラブ』と並んで、時代が変わっても普遍性を勝ち取り得るロマンティックな一作と見た。
