エミさん

長いお別れのエミさんのレビュー・感想・評価

長いお別れ(2019年製作の映画)
3.7
中野量太監督の前作『湯を沸かすほどの熱い愛』が相当良かったので、期待満載で鑑賞。認知症を発症したお父さん(山崎努氏)とその家族の物語。割と、ほんわかした雰囲気だったので、あれ?と、少し肩透かしを喰らった気分でした。

認知症を発症した家族の介護は社会的な周囲への配慮が1番大変なので、家族の心労は病気の進行に比例して大変だと思いますが、他の病気と違う所は、新しい気付きや楽しいこともあるということ。病気が発覚しても別人になるわけではない。理性が段々と壊れていくので、自発行動が減ってしまいますが、だからこそ、その人とのコミュニケーションが大事になってくるのです。
認知症ってほんと、特殊な病気だと思います。

劇中でも、それぞれの家族が自分の生活を維持しながら面倒を見なくてはいけない状態でした。自分の事を考えたいのに、御構いなしに次々と問題が起こっていく。
蒼井優さん演じる次女のセリフ
「お父さん、私も壊れちゃった」
あの縁側のシーン。1番好きです。臨場感がこもっていて良かったです。何気ないセリフなのに、認知症の脳と、一杯一杯の気持ちとを比喩していて、何もかも上手くいかなくて立往生してしまった時、思わず言いたくなってしまうなぁって感情移入してジーンとなってしまいました。

『湯を沸かす〜』は情熱的な内容だったので、うぉぉ〜!というようなストレートな感動を感じたのですが、この作品はほっこりじんわりとした温かさのある印象の感動でした。

3本の傘を持って家に帰ろうとするお父さん。認知症の症状には色々ありますが、今まで培ってきた人生の記憶が壊れてしまっても、お父さんにとって鮮烈に残っていた記憶に繋がっていたことがわかるエンディングも良かったです。無から始まった家族が色々なものを培っていき、やがて家族皆んな歳をとってバラバラの人生を歩んでいっているように見えても、根っこではつながっているんだということを再確認した想いでした。
中野監督が作る作品はどれもあったかくていいですね。。