エミさん

さよなら、ベルリン またはファビアンの選択についてのエミさんのレビュー・感想・評価

3.8
178分!! 長いです…(泣)。
4年ぶりに見たトム・シリングは、良かったでした。
『コーヒーを巡る冒険』が好きな人は、この作品だって好きになります。

1930年代のドイツを舞台に、目的を見つけられず惰性で生きているファビアンを主軸とした人間の悲喜劇。
世の中が変わっていく中でも必死に生き抜いていく様が鮮烈に描かれている。

映像は、ハンディーカメラでベルリンの地下鉄ホームを過ぎ行く風景から始まる。
地上に出ると、そこには、第一次大戦に出征し、心的外傷に苦しむファビアンの姿があった。
街には、緩やかなドイツ人の人々の営みに混じって、張り紙やら軍服兵隊の姿やら…、じわじわと不穏なナチスの影が忍び寄っていることが見て取れる。

劇中で「人間に必要なものは祖国だけだ」という風刺のセリフが印象的だった。
祖国の為に人は闘いを強要される。
敗れても帰る祖国がある者は、まだ幸せである。

毎日がどうなっていくのか…、人生は何処へ向かえばいいのか…、という不安。
気持ち次第で変えられる世界と、不条理にやってくる苦しい世界。
誰もが抱えている人生への恐怖。
それは、溺れるような息苦しさだ。
カナヅチのファビアンを比喩に、教授になれるほど賢いのに、人生を上手く泳ぐことが出来ない姿を描くことで、時代に翻弄されながらも生き続けていくことが難しいことがよく分かる。
それでもファビアンは、人間の内面的価値を大事にし、「生きるということは、1番、楽しい仕事だ」と言っていた。
その姿は、まだ何を成していなくとも気高く美しく見えました。

178分と少し長丁場ではありますが、自粛で、しばらく良い作品とは疎遠だったので、久しぶりに劇場で良いものを堪能したなぁ〜と幸せを噛み締めました。

感染対策をして是非、劇場で観て欲しい作品です。