レオピン

プライベート・ウォーのレオピンのレビュー・感想・評価

プライベート・ウォー(2018年製作の映画)
3.7
【そんなの関係ねえ】

イラク戦争の時の米軍は報道陣を徹底した統制下に置いた。いわゆるエンベッド取材。それはベトナム戦争以来の軍とメディアのせめぎあいの中で生まれた形式だったが、同時に記者は兵士と一体化しお茶の間へ届けられる情報に偏りが生まれた。愛国的な報道だけで視聴率を稼ぐFOXニュースが台頭し、政府発表と報道が違わないものへとなっていった。

メリーは鼻で笑って(規則を)ガン無視し、ベースを後に出かけて行った。現地の人の生の声を聞き出すために。。

あぁ 感度だけが問題なんだ

「報道の自由度ランキング」を持ち出すまでもなく日本のジャーナリズムはとっくに死んでいるもんね、などと嘲りたくなるが、まだ頑張っている記者も知っている。
元々民主主義などこの国にはないのだからと、メリーと同じ片目の叔父貴ダースレイダーが言ってることにも頷いてしまうが、特にこの数年はどんどん悪くなっているなと感じる。

これまで発生した日本人記者拘束事件などを見ても毎度強い風当たりを見てきた。猛烈な自己責任論、バッシング。戦地へ行くこと自体が罪みたいなとらえ方。

閉ざされた人々には波風立たせるものは全て悪なのだろう。いよいよ報じることがテロみたいな認識なのだろうか。

かつて、沢田教一や『地雷を踏んだらサヨウナラ』の一ノ瀬泰造などはそれなりの尊敬を集めたものだった。やはりこの15年くらいのことだ。原因には急速な内向き志向があるのだろう。

大マスコミが届かない所にまで分け入って情報をとってくるフリーランス。ことが起きたらいち早くアンテナ代わりとなり何が起きているかを報じることが彼らの役割。
遠い世界に彼らがいることで想像することが出来る。飢えと寒さを。健全な民主主義社会に住みたいのなら彼らの目は欠かせない。
 
愛の反対は無関心ってよく言うが、平和の反対も無関心。戦地取材をするジャーナリストに冷淡なのってかっこよくも何ともない。単にヤバい。

一方で映画はヒーローでも何でもない生身で傷つき怯える記者の<プライベート>な姿を描いていた。刺激ジャンキーとしての生き様。強度の強い体験を繰り返したことで、普通の世界に戻れなくなってしまう危険性。PTSDと依存症。

これはある種の冒険家や探検家、スポーツ選手にも通ずる話。途中で『植村直己物語』だと思ってみてました。また同時に彼女の でも行くんだ でもやらなきゃ が会社に利用される一面も。
メリーに一人「見る役割」をおっかぶせていることにいたたまれなさを感じつつ、戦地へ送り出す上司のショーン(トム・ホランダー)や親友の黒人女性の表情が胸に残りました。

ショーンが周りを気にかけさせることに関しては君は一流だという台詞があった。メリーはアテンションを集めやすい性格。あの人のことをほっとけないと思わせる天才だそうだ。

優れた記者の資質の一つに人々の注意をどこかに集める、指さす能力。それはその人自身がどこか注意を集めやすいからというのもあるのだろう。

⇒エンディング アニー・レノックス 「Requiem for A Private War」

⇒ロザムンド・パイクは、この年2018年『ベイルート』でレバノン内戦、『エンテベ空港の7日間』でエンテベ空港作戦の映画。そして本作と立て続けに中東絡みの作品に出たことになる。どんだけ~

⇒マーサ・ゲルホーン「The Face of War」
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