エソラゴト

運び屋のエソラゴトのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
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予告編で流れていたような緊迫感溢れるクライムサスペンスものを予想していましたが、良い意味で裏切られました。

かれこれ10年も前の作品『グラン・トリノ』でも原案・脚本を担当したニック・シェンクは今作の主人公アール・ストーンと『グラン・トリノ』のウォルト・コワルスキーは表裏一体の関係だと語っています。

朝鮮戦争退役軍人という共通点はありながらも、一方は怒りを抱えもう一方はその怒りを隠しながら日々を生きている者。

他者との社交性の点から見ると正反対のキャラでありながらも、今作のアールは家族にとっては原題の"MULE"が意味する頑固者に変わりありません。

両者共根っこは同じ頑固者なのですが、いくら歳をとっていても他者や身内との関わり合いを通じて自己を見つめ直し変わって行こうとする前向きな姿が全編を通して描かれています。

「年齢に関係なく人は変われるものなのだ!」

身をもって体現しているイーストウッド監督が演ずる10年越しで重なる2人の頑固ジジイの不器用な生き様に胸が熱くならない訳がありません。

家族への贖罪、次の世代を担う者への助言や忠告などが織り込まれている為、今作が何か彼の集大成的なまた遺言めいた作品に感じる部分が多々ありますが、劇中でも描かれるお盛んな場面や(笑)、「老人役を演じるのに苦労していた」と愛弟子ブラッドリー・クーパーが語る通り今後もまだまだ生涯現役(色んな意味で!)を貫き通すのでしょう。


追記:パンフには今作の原案になったルポルタージュが掲載されていてなかなか興味深い内容になっています。ただ事件の経過を追っているものなのでモデルになったレオ・シャープという人物の人となりは確かに描かれていません。そこに監督と脚本家が肉付けをして今作を完成させたという事が分かります