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象は静かに座っているのギルドのレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
4.9
【希望 / 出口のない運命の対峙を託した遺作】
河北省の片隅を舞台に自分を見失った四人の男女が中国・満州里の一日中座っている象に会おうとする群像劇。

人々の内面を鏡のように映す廃れた街…その薄墨色な空間で見せる映像に「威力」を感じました。映像で心を鷲掴みされた気分になるのは今年に入ってからこの映画が初めてでした。
限定的にかかるホァ・ルンのギター&シンセサイザーの BGMも素晴らしいけど、それ以上に「無機質でドライな冷たさ」と「ディストピアな美しさ」が融合された映像が一番の見どころに感じました。華やかな芳華-Youth-と対極の存在にいる作品でした。

タル・ベーラの長回しを比較される方もいますが、個人的にはネメシュ・ラースロー監督の「サンセット」「サウルの息子」のような焦点をキャラクターの肩に合わせて他をぼかす・主張を抑える感じが近いかな。(アートディレクションや音楽の使い方はタル・ベーラらしさがあると思います)
長回し慣れしたのもありますが、この撮り方で自責の念・変わらない途方の無さ・生き辛さを見事に演出されていて良かったです。
暗くて脆いけど同時に、日常生活をディストピアな芸術作品に仕上げるアートディレクションが素晴らしかったです。
登場人物の殆どはクズな部類ではあるものの距離感や台詞の食い違い・主人公たちの照度の暗さに「虚構」があり、中国の実情を踏まえると悲しいくらい普遍性がある絵面の説得力が凄かった。
映像を堪能したい人にオススメしたい作品です。


作品自体も様々な事情があって、亡くなった監督はこの映画を通じて世界の暗さ・生き辛さを表現したと共に彼の見える世界を表していると思われる。
それでも河北省の片隅…自らの境遇・運命と決別した主人公たちを前向きにカメラは捉えてくれた。満州里へ向かおうとする彼らを祝福するかの如く日常の光で照らしてくれた。
日常を超えた世界の果てに希望はきっとある。希望は自分の意思で掴むものであり、世界の残酷さに埋もれかけた「一抹の光」に監督は魂をかけたかもしれない。

この映画は間違いなく私の心に深く共鳴して静かに感動を与えてくれた。
フー・ボー監督、ありがとう。
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