great兄やん

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

5.0
【一言で言うと】
「資産は“疫病”を呼ぶ」

[あらすじ]
地元の有力者である叔父のウィリアム・ヘイルを頼ってオクラホマへと移り住んだアーネスト・バークハート。アーネストはそこで暮らす先住民族・オセージ族の女性、モリー・カイルと恋に落ち夫婦となるが、2人の周囲で不可解な連続殺人事件が起き始める。町が混乱と暴力に包まれる中、ワシントンD.C.から派遣された捜査官が調査に乗り出すが、この事件の裏には驚愕の真実が隠されていた...。

超絶大傑作。まさにマーティン・スコセッシの“真骨頂”と呼ぶに相応しい作品であり、206分もの長尺が一瞬たりとも“蛇足”に感じさせない凄味を終始目の当たりにしたような気がする。久々に映画そのものに宿る純然たる“迫力”を味わったかもしれない。

これまでスコセッシ監督は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』や『アイリッシュマン』など、無から有へと増幅させる“欲望”が負へと帰す“盛者必衰”の物語を描いてきたのだが、今作ではその下地をアメリカが抱える“暗部”へと目を向けて描くという計り知れない“覚悟”を感じましたし、それに加えて『福田村事件』に近い人間そのものが持つ差別意識の“矛先”に恐怖を覚えるほどでした(・・;)…いやマジで、このテのストーリーを描かせたらマジでピカイチなスコセッシ監督ですけど、今作に至ってはその“描写”により鋭く磨きがかかっていたようにも思えます...

とにかく巨万の富や権力の裏でひしめく強欲さ、それに金や利権の為なら人の命すら容易く潰えてしまう恐ろしさにただただ震えた。しかもこんな倫理観が欠如しまくりのイカれたストーリーが“史実”という時点で如何にインディアンに対する扱いが粗雑かつ“人”として扱われていないかが分かるし、友好を築く裏で殺せば金が湧き出る“資産”としか思ってない白人の傲慢さには、ある意味マフィアよりも恐ろしい業の深さを感じてしまう。

それになんと言っても脚本が精巧に作られているからこそなのか、ストーリーに引き込ませる展開運びがメチャクチャ秀逸かつ緻密で、淡々としていながらも克明に残虐性を見せつける容赦無い展開はまさしくスコセッシ監督ならではの“妙味”に溢れており、尚且つ遅効性の毒の如くジワジワと“悪”が侵食していくあの絶妙なスピード感はまさにスコセッシ作品でしか味わえない格別な体験が染み渡ってゆく。

確かに途中尋問のシーンなどは少し中弛みを感じてしまったのは否めませんが、それでも観終わってみれば無くてはならない必要不可欠な要素だったと思うし、映画というものに対して真摯に向き合う姿勢、そしてメッセージを受け止めて己の心で反芻せよというスコセッシの“教示”を改めて受け取った感覚が強く残りましたね🤔...

とにかく親密なインディアンと白人の裏で繰り広げる“金”を巡る骨肉の争いは果たしてどう行き着くのか、“強欲”に満ちた罪とインディアンの妻に捧げる“愛”のさなかで揺れ動く、まさに壮大かつ凄惨な“罪と愛”を描いた至高の一本でした!!!

新旧スコセッシ組のレオ様とデ・ニーロの演技は相変わらず、というか最早崇高の域にまで達したベストアクトに鳥肌が立ったが、アーネストの妻モーリーを演じたリリー・グラッドストーンがその二人のレベルを更に超越する神がかり的な演技力でただただ圧倒された。多分だが確実に来年の賞レースでノミネートを席巻するだろうし、まさしく今年観た映画の中でベストアクトに相応しい演技を刮目しましたね(゚o゚;;...

これまで何作かスコセッシの作品を観てきたわけですが、明らかに年々人間の“本質”を克明に炙り出すパワーそのものが増してきているようにも思えるし、齢80を越えてもなお底無しの欲望について警鐘を鳴らし続ける彼はまさに正真正銘の“映画監督”だと称賛したい。いやマジで...こんな贅沢かつ芳醇な超大作をまた作ってくれるなんて本当に感謝しかないですよ😌...