うっちー

国家が破産する日のうっちーのレビュー・感想・評価

国家が破産する日(2018年製作の映画)
4.0
 公開日が待ち遠しかった作品。思った以上にリアルで重く、またある意味容赦がない。韓国現代史メモリアル映画シリーズに新たな1ページが加わった、という感じ。
 日本で言えば日銀のような、半国家組織的な銀行の通過政策を担う女性、シヒョンが主人公。メディアなどではバブル的な好景気と喧伝されながら、実は財政状態はボロボロで、借金に借金を重ねていた韓国。その窮地をいち早く察知したシヒョンは、総裁に緊急対策を直訴。財務局等国の金融政策の担当官を収集しか協議をはじめるが、彼らは全く違う立て直しのビジョンを描いていた‥…。

 終始シリアスで硬派な筋立てとグレーがかった暗めの映像で、余計なエピソードや感傷もあまりなく、淡々と進んでゆくストーリー。正直楽しい話ではないので、人によっては滅入ってしまうかもしれない。しかし、キム・ヘス演じるシヒョンの鋭敏さ、本当にあらゆる層の国民のために必要な政策とは何かを考え抜いた行動力、そしてその行動を押し進める意志の強さに、ひたすら感心し、惚れ惚れしてしまうので、個人的には辛くなかった。対立する財務局次官等のミソジニー入り混じる態度や、社会の下層にたむろする人々や中小企業、個人事業者はどうでもよい、という、ある意味虚無的で新自由主義に近い思想に怯むことなく向かってゆく姿が清々しく頼もしい。この役回りにぴったりなキム・ヘス。改めて素晴らしい女優さんだと思う。
 
 映画はシヒョンだけでなく、いくつか異なるスタンスの人物の視点からも描かれている。この危機を一獲千金のチャンスと考えて、銀行のサラリーマンから投資コンサルタントとなるジョンハク(ユ・アイン)、町工場を営むガプスとその周辺。ジョンハクは、ちょうど一昨年あたりの傑作『マネーショート』でクリスチャン・ベールが演じた人物を彷彿とさせる。情報収集力や着眼点の確かさ、そして何らかのコンプレックスか因縁などがありそうな感じなど。ジョンハクの場合、階層による格差の中でもがいてきた者の恨みや鬱憤もありそうで、そんな様々な暗い意図を感じさせるユ・アインの演技は、見事にハマっていた。やはりこの人、べらぼうに上手い! 
 うってかわってひたすら哀れなのが、町工場の人たち。手形取引で不渡りを掴まされ、支払いが滞ったら刑務所行きという何とも卑劣な運命に翻弄され、家族もろとも生活苦に陥ったり、自殺に追い込まれたりという悲劇は、当時の韓国では実際にあっことだという。身につまされる。

 『1987 ある闘いの真実』や『工作』に連なるタイプの作品として素晴らしいのだけど、ほんの少し、ユーモアが介在していても良かったんじゃないかな。『マネーショート』(ふざけ過ぎwww)ほどでなくてもよいが、あまりに直球だし、展開が早くて、尺は些か短めなので。20年後の現代をもう少し丁寧にやってもよかっただろうし。ただ、政治ものだけど同種な日本の『新聞記者』などに比べると、ラストの後味が悪くない(未だ闘う意志が残っている)のはすごく良い。韓国現代史を知る意味ではもちろん、我が国においても起こり得る危機を知るという意味でも、今観る価値の高い作品だと思う。
 
余談ながら、韓国ってつくづく苦労の絶えない国なんだなぁという感慨を新たにした。

 ラストにほんの少しながら、ハン・ジミンが出演していて、軽く驚かせてくれます。
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