LalaーMukuーMerry

国家が破産する日のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

国家が破産する日(2018年製作の映画)
4.4
ここのところ韓国映画の政治モノは「タクシー運転手」「1987、ある闘いの真実」「工作 黒金星と呼ばれた男」と名作が続いていたが、経済モノでもすごい作品が出てきた。韓国映画おそるべし。
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1997年のアジア通貨危機で、東南アジア(特にタイとインドネシア)に続いて、韓国も大打撃を受けた。ヘッジファンドが空売りを大規模かつ集中的に仕掛けた結果、自国通貨と株が大暴落した。国は対抗して買い支えようとしたが支えきれず破産寸前まで追い込まれた。
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この映画は、通貨危機の最中に韓国政府中枢(韓国銀行)で何が行われていたか、IMF(国際通貨基金)の「支援」とは実際にはどんなものだったのかを描いているとても興味深い作品。とっつきにくくて堅くなりがちな経済問題が主題だが、韓国銀行の通貨政策チーム長の女主人公の他に、二人の民間人の危機への対応ぶりがサイドストーリーとして並行して進むので、入り込みやすくなってます。
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その二人とは、何も知らずに不渡り手形をつかまされて一気に苦境に立たされた中小企業の工場長(韓国の大多数の人々の代表)と、株の大暴落を予想して大胆な空売りで大儲けして時代をつかんだ金融アナリスト(どちらも架空の人物でしょう)
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国家破産の危機からの経済立て直しを通じて(良く言えば)韓国経済界の再編が行われ、(悪く言えば)韓国は事実上アメリカに乗っ取られた、という記事をいつか読んだ気がする。そういうことだったのか。
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IMFの交渉術
・相手の足元を見て、まず合意内容を覆さないという覚書に署名しなければ交渉に入らないとくぎを刺す(中身も示さないうちから合意をせまる)。そして次の大統領選の主な候補者全員がこの覚書に署名する必要があるという(保守派が勝っても、民主派が勝っても従わせるというしたたかさ)。
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・次に6つの前提条件に合意しなければ、具体的交渉(どれだけの金額を支援するか)に入らないと、またしてもくぎを刺す。その条件とは、韓国の主要な銀行を停止させる、金利を大幅に引き上げる(12.5%→30%)、外国人投資枠の大幅引き上げ(7%→50%)、派遣労働を可能にする、そのための法整備を行う、・・・
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相当えげつない、まるでヤクザの脅し。こんなの許されるんか? このIMFはアメリカと深~く繋がっていた。資本主義は民主主義と相性がよいとされているが、資本主義社会は弱肉強食で容赦のない競争社会でもある。資本主義社会の「自由と平等」とは、労働者や民衆のものである前に、資本家や企業の活動に関することであるというダークな一面がある(独裁国家の有無を言わせぬ命令とたいして変わらないじゃないか!)。 
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自由と平等をうたう民主主義社会において、正規労働と非正規労働の格差が生まれてくるのは理念と逆行してないか? 結局のところ、理念よりも経済合理性の方が優先されるということか。 古代ギリシャでも民主主義といいながら奴隷が社会を支えていた。今の資本主義社会で、グローバル化した大企業にこき使われる“自営業者”や非正規社員という存在は、新しい形態の「奴隷」の始まりなのかもしれない。 
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主人公の目線に立てば、通貨危機をチャンスに、既得権を持つ人がひどいことをして社会をメチャクチャにして不幸な人を大勢生んだ、というような印象を受ける。でも・・・
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Gapminder という(「Factfulness」という本の関連)サイトで、各国の一人当たりGDPの変化を1800年から現在までグラフとしてみることができるのだが、韓国は日本に遅れることだいたい20年、1965年以降一貫して右肩上がりに成長していることがわかる。日本が1990から成長が著しく小さくなったのに比べ(日本の失われた30年)、韓国は率は小さくなったもののまだ成長を続けていて、今や一人当たりGDPは日本と同レベルになっている。
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韓国のグラフは1997年にちょっと下に窪んでいて通貨危機の影響があったことがわかるのだが、全体としてみればほんのわずかだ(対数グラフなので小さく見えるだけ?)。IMF介入のおかげで韓国は、通貨危機の後すぐに立ち直り、それ以前と同様に成長し続けられたのではなかろうか? だとすれば結果論的にIMF介入はさほど悪くはなかったのかもしれない。もし、主人公の意見が通ってIMF介入を食い止めて、国家破産して自力で立ち直る道を採ったとしたら、どうなっていたのだろう? 今のような韓国の繁栄は可能だっただろうか?
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よくわからない・・・。 でも当時の韓国の為政者たちの不誠実さや、都合の悪いことを隠蔽する体質は、今のどこかの国とそっくりだから、この映画のメッセージには共感を覚える。