ラウぺ

彼らは生きていた/ゼイ・シャル・ノット・グロウ・オールドのラウぺのレビュー・感想・評価

4.0
英国の帝国戦争博物館(Imperial War Museum)に保管されている第一次大戦中に撮影されたモノクロフィルムをピーター・ジャクソンがレストア、当時の兵士のインタビュー音声と新たな吹き込みをナレーションとして加え、カラー化したドキュメンタリー。

まず驚くのがその映像のクリアさと滑らかな動き。
コマ速が秒/13とか秒/16といった不ぞろいの映像を24コマに揃え、丁寧に傷などを取り除いたとのことですが、適切な明るさで違和感なく彩色された映像は100年前の兵士の様子を実に生き生きと伝えます。
『1917』では戦場のリアルな再現に好感を持ちましたが、やはり本物のみが持つ説得力ある映像を観ることは、なによりも貴重な体験といえるでしょう。

映画は戦争の始まりで志願した若者が訓練を経て戦場に送られる様子から始まりますが、開戦当初の「この戦争は短期間のうちに終わる」という楽観的な気分と、国に貢献したいという若者らしい素直な(=安直な、とも言える)愛国心に駆られて戦場に向かった様子が語られます。
当時、兵役の適齢に達しない19歳以下の若者が年齢を偽って志願していたことは良く知られていますが、送り出す親もまたそれを承知で子供を戦場に送っていたことが語られるのはある意味衝撃的でもあります。
彼らはまもなく訓練の厳しさと、軍隊生活の不自由さに音を上げたりするのですが、生還者の声はこの厳しさが戦地で生死を分ける大きな意味を持っていたことを身を以て知っているのでした。
体験した者のみが持つ説得力ですが、兵士になるということは一般人の平常な感覚とは大きく乖離した感覚を身に着ける、ということでもあるのでしょう。

やがて彼らは戦地に送られ、荒廃し、塹壕が網の目のように張り巡らされた戦場を目の当たりにすることになるのです。
映像はここからカラー化。
このイメージの転換こそ、普通人と彼ら兵士の見る世界の境界であり、我々一般人が目にすることのない、戦場の生のイメージを見せつけられることになるのでした。
塹壕での不衛生な生活、不意に訪れる仲間の死、太ったネズミやハエや死体にたかるウジ・・・匂いこそ伝わってきませんが、動物の死体の匂いを一度でも嗅いだことのある人なら、戦場に漂う匂いがどれほどのものか、ほんの一端でも想像することができるのではないかと思います。
モノクロであれば多少刺激の抑えられたであろう映像も、カラーとなることで嫌でも脳内を直撃し、目を背けたくなるような映像と、およそ想像することも難しい戦場での体験談の連続に、画面に釘付けとなってしまうのでした。

戦場での凄惨なエピソードの合間には敵のドイツ兵との邂逅のエピソードが登場しますが、捕虜となったドイツ兵にあまり敵意を持っていなかったこと、映像には両者の打ち解けた様子が残され、戦争の理由やその意義といった部分とは切り離された、一般兵士同士だけが共有する連帯意識の表れなのだと感じました。

映画は戦争が終わり戦地から引き揚げた彼らを映し出しますが、映像はここで再びモノクロに。
待ち受ける冷ややかな視線と一般人への復帰が決して容易ではなかったこと、戦場での体験が植え付けたものの大きさを実感することになるのでした。

原題は”They Shall Not Grow Old”で、邦題のようにポジティブな題名ではなく、悲劇的ニュアンスの強いものですが、原題の持つ意味は、戦場で帰らぬ人となって歳をとらなくなった兵士を指すものと、映像の中で若い姿のまま記録されている彼らを指すものと、両方の意味があるのではないか、と感じました。
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