ラウぺ

梟ーフクロウーのラウぺのレビュー・感想・評価

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
4.2
1645年、清での人質生活から朝鮮に戻った昭顕世子(そひょんせじゃ)はほどなくして病にかかり、命を落とした。彼の全身は黒く変色し、目や耳、鼻や口など七つの穴から鮮血を流し、さながら薬物中毒死のようであった-仁祖実録-
世子の帰国のしばらく前、盲目の鍼師ギョンスはその卓越した鍼の技術が評価され、宮廷で働く機会を得た。帰国したばかりの世子に認められ、重用されるようになるが、あるとき世子の体調が急変する・・・

朝鮮の歴史のことは皆目分からないのですが、映画の冒頭で掲げられる世子の急死の様子は実際の文書に記録され、明らかに謀殺と思われる、という歴史的事実に基づいて映画は作られているようです。
この「仁祖実録」が事件の後どのくらい経過して書かれたものなのか分かりませんが、明らかな謀殺であることが書かれているところからして、世代が経過した後に書かれたもののように思われます。
映画では中国の王朝が明から清に変わり、属国としてそれに従わざるを得なかった朝鮮の王朝の悲哀が滲んでいて、興味深いものがあります。

ギョンスのキャラクターは創作なのだと思いますが、宮廷内での陰謀に絡む盲目の鍼師の巻き込まれるサスペンス、というこの映画の物語は、二転三転する展開や明確なキャラクター描写とエモーショナルな数々の出来事で観る者を釘付けにします。
歴史的事実をもとにしながら驚くべき自由さで物語を紡いでいく推進力の強さは、韓国映画の最大の美点だといえるでしょう。
事件の背景や黒幕を巡って一瞬のうちに攻守が逆転し、窮地に陥ったり、好機が到来したりを繰り返す物語は最後の瞬間まで物語がどこに落ち着くのか予断を許しません。

冒頭で掲げられる仁祖実録の一節が、エンディングで絶妙な意味をもって閉じられるとき、この驚くべき物語が非常に良質のエンターテインメントであることを改めて納得することが出来るのでした。
文句なしに楽しめる傑作だと思います。
ラウぺ

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