ラウぺ

DOGMAN ドッグマンのラウぺのレビュー・感想・評価

DOGMAN ドッグマン(2023年製作の映画)
4.2
土砂降りの中、警察に止められたバンは傷だらけの女装した男が運転しており、後部には10数匹の犬が乗っていた。ドッグマンと呼ばれたその男ダグラス(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)は留置場で精神科医にこれまでの経緯を説明しはじめる・・・

リュック・ベッソンの映画は『レオン』のような傑作もある中で、ちょっと微妙な出来の作品も散見される(悪くいえば当たり外れが大きい)イメージがありますが、結論から先に言えば、本作は殆ど欠点が見当たらない傑作だと思います。
狂気の滲むサイコな役が板についたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの雰囲気はさすがで、ジョーカーのような怜悧さと狂気が滲む。
暴力的な父とそれに従属的で共犯関係にある兄のせいで犬小屋に押し込められ、犬以外に友達も理解者も居ないダグラスが、如何にして“ドッグマン”となったかが語られる物語はダークヒーローの誕生譚として鉄板ともいえる展開で、さまざまな挫折と絶望を繰り返すうちに社会から拒絶されたと確信するに至る物語は、やはり『ジョーカー』的といえます。

この中で犬に対する思いと愛情の深まりが徐々に強くなる描写は、本作の大きなポイントといえます。
社会から拒絶された主人公が犬たちとともに反撃に出る展開は『ホワイトゴッド』を思い起こさせますが、本作はエンターテインメントとして非常に良く練られていて、ドッグマンが無敵ぶりを発揮するようになると爽快感すらある。
アジトで敵のギャングと対決する場面では『イコライザー』のロバート・マッコールのような頼もしさが漂い、ホーム対決での地の利を生かした描写は『ホーム・アローン』的な可笑しさもあったりする。

物語の中で実は重要なポジションを占めていると感じるのは“神”に対する思い。
暴力的な父や兄も事あるごとに神への帰依の言葉を口にし、ドッグマンの言動にもそうした家庭で育ったことが随所に現れる。
社会に対する反抗心がいつしか犯罪者として狂暴な一面が現れるようになってくる後半の展開が、クライマックスを経てドッグマンの中にある種の“浄化”を希求する姿勢が見えてくる。
ドッグマンが自らに課す行動が、果たして神に届くのか?
印象的なエンディングが、エンターテインメントとしてのこの作品を一段高いところに押し上げていると感じるのでした。

凹凸の多い作品群の中にあって、この作品はなんだか初期の頃にあった勢いと凝縮感が最高度に結晶し、リュック・ベッソンの最良の姿を具現化した傑作だと思いました。
ラウぺ

ラウぺ