ラウぺ

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章のラウぺのレビュー・感想・評価

4.2
3年前の8月31日、東京上空に直径5000mの巨大な“母艦”が出現し、これを撃退するために米軍が“A兵器”を使用、東京では現在も微量の“A線”が観測されている。相変わらず母艦は東京上空に留まり続けたが、時折母艦から放たれる小型船は自衛隊により各個撃破され、東京は一見普通の日常を取り戻したかに見えた。
東京の高校に通う小山出門、中川凰蘭たち5人組は中二病的オタク全開の会話をしながら普通の高校生活を送っていたが・・・

この作品のことは映画が劇場公開されるまでまったく知りませんでしたが、原作は『うみべの女の子』の浅野いにおとのこと。
『うみべの女の子』はなんというか、原作が成年コミックということもあってか、これでR-15?というくらい性描写が過激で(いや絶対R-18でなければおかしい)、それ以上に思春期の性に対する剥き出しの感情が溢れ出てきて、50代のおっさんには中学生でこの描写は刺激が強すぎて、観ている方がなんとも居場所に困るような作品でした。

普通の女子高生たちを主人公に据えているといっても、突如巨大な宇宙船が出現し、それが何の目的で現実の脅威かどうかも分からないという設定は『第9地区』と非常によく似ていて、これがコロナ後や大震災、そして戦争が日常的に行われている現実世界の中にあっては、ここで描かれているさまざまな描写は非常に今日的で、多方面に渡っています。
小山たちの日常生活はオタク的趣味中心の会話の中でも特別の興味の対象はやはり異性との付き合い絡みであり、担任に想いを寄せる小山や同級生の小比類巻と付き合いはじめた栗原キホなどの描写は明らかに『うみべの女の子』を彷彿とさせる生々しさが感じられるところです。
小山が溺愛する漫画『イソベやん』の主人公イソベやんという名前も『うみべの女の子』に登場する男子の名前も磯部であり、原作者的に“磯部”の名前には何か思い入れがあるのかもしれません。
その『イソベやん』の描写は明らかに『ドラえもん』へのオマージュであり、のび太に相当するデベ子(声はTARAKO)は『笑ゥせぇるすまん』的バッドエンド?で終わる。

中川の引き籠の兄や小山の母、小比類巻など、今日的エコーチェンバーやフィルターバブルのまさに渦中にある人物として描かれ、情報過多の中にあって、正しい情勢認識や事実を見極めるスキルの欠如を欠くとどうなるか典型的な事例として示しているのですが、一方で母艦から地上に出現する異星人を“侵略者”と決めつけ、見つけ次第抹殺する自衛隊の任務が果たして正当といえるのか?を問う展開が“正義”の相対的な位置づけがどれほど脆い部分に立脚しているのかを観る者に問いかける。
中川と接触を持った異星人は中川に幼い頃の中川と小山の関係を現実とは少し違う平行世界の過去?を見せる(ここだけスクリーンがスタンダードサイズになる)
この部分が本当はどういう意味を持つのかは後章を観ないとなんともいえないところですが、一方的な“正義”の行く末に何があるのかを鮮烈な描写で見せつける展開は、異星人を敵対者と安易に決めつけることへの疑問を抱かせるに十分な効果があるといえるでしょう。

思いがけない展開と後章に続く物語の行く末が予想されつつ物語が終了しますが、これはこのあとどのような物語が展開されるのか、ふわっとしたキャラクター描写はシニカルでありつつ基本はコメディ的立ち位置にありながら、『まどか☆マギカ』に似た終盤でのカタストロフ的悲劇を匂わせる雰囲気がまた大いに興味をそそられるのでした。
後章はちょっと上映開始が伸びて『関心領域』と同じく5月24日の公開となったとのことですが、公開日を楽しみに待ちたいと思います。
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