great兄やん

オオカミの家のgreat兄やんのレビュー・感想・評価

オオカミの家(2018年製作の映画)
4.4
【一言で言うと】
「醒めぬ“悪夢”」

[あらすじ]
美しい山に囲まれたチリ南部で、「助けあって幸せに」をモットーに掲げて暮らすドイツ人集落。動物が大好きな少女マリアは、ブタを逃してしまったために厳しい罰を受け、耐えきれず集落から脱走する。森の中の一軒家に逃げ込んだ彼女は、そこで出会った2匹の子ブタにペドロとアナと名づけて世話をするが...。

観る”悪夢“とはまさにこのこと。ストップモーションアニメとしては表現の衒い方がマジで異次元過ぎて終始驚異的だったし、あの表現技法を繰り出せるレオン&コシーニャ監督の脳内を是非とも覗いてみたいほど常人離れしまくった映像の連続だった。

観てて気が狂いそうになる造形の不気味さは勿論のこと、“平面”と“立体”を駆使して物語を進行させるあの平衡感覚の崩し方が秀逸かつ狂気的で、実際に悪夢が投影されているような脳内で起こる“不完全さ”を見事に具現化していたかのように思える。

...皆さんも夢の中の出来事ってどこか現実味を帯びながらもどこか歪に形成された“描写”を見た経験ってあるかと思うんです。それを今作では禍々しくもアーティスティックに表現する力量も凄いし、尚且つ観る人が観ればリアルガチでトラウマになる威力の凄さも充分にあると思っている。マジで。

それに今作の裏テーマでもあるチリに実在したカルト教団“コロニア・ディグニダ”の闇にも切り込んでおり、間接的ではあるものの“脱走=悪夢”というある種洗脳まがいのプロパガンダとしても機能した作品となっているのがとても興味深かったです🤔

実際この教団の事を観終わった後に詳しく調べたら結構エグい真相が次から次へと出てきたので(・・;)...なのでこの教団指導者が制作したクレイアニメという体制の視点で観てもリアルにありそう…という実感が生々しかったですし、変に説教臭くするのではなく“御伽話”テイストなのが幼心に邪悪な警戒心を持たせる効力として発揮していましたね😔...

とにかく悍ましくて恐ろしい感情を抱くもどこか古ぼけた“懐かしさ”をも感じてしまう、観終わった後に記憶に根付くだけでなく幼少期に感じた懐古的恐怖心を掘り起こされるような一本でした。

ナレーションが子守唄のトーン過ぎて時折睡魔がやって来そうではあったが、それ以外は映像表現の特異さに終始呑まれる勢いでしたし、意図的にベールに包んだストーリーであるため掴みようのない展開に頭が混乱しつつも、他の映画では到底味わえない圧倒的なクオリティを感じれる。

アリ・アスターが今作に惚れ込む要因も充分に分かるし、ある意味カルトにおける潜在的“依存”をクレイアニメにて邪悪に表現した執念の一作。遅ればせながらでしたが、いやはや最高の“バットトリップ”でしたね😅...