もものけ

クローブヒッチ・キラーのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

クローブヒッチ・キラー(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

バーンサイド一家は敬虔なクリスチャンであり、父親はボーイスカウトの教官もする善良を絵で描いたような幸せなファミリー。
思春期のタイラーは、ガールフレンドと会うために父親が寝静まった後、車を持ち出してしまう。
相思相愛なガールフレンドとの一時の最中、シートの脇から出てきた写真。
それは、彼の人生を変えてしまうほどの恐ろしい物だった…。







感想。
映画というよりはテレビ・ドラマのようなカメラ構図が特徴的で、音楽を効果的に使ってスリラーとして上手く演出している作品。
広がりのない寄り気味のショットですが、動きのあるカメラワークで観客の注意を引くように丁寧に構図をまとめ上げております。

敬虔なクリスチャンである住民の多くが顔見知りであり、教化された思想が街のルールという場所で、思春期の青年を主体に描いているので、一度"異端"扱いされると住民の目が変わる閉鎖的な環境で苦悩するありさまと、シリアルキラーを探るスリラーが合わさって、多感なお年頃の青年との関わりとして描かれておりますが、協力者としてもう一人の"異端"である少女と共に、コミュニティに潜む闇を探し出すスリリングさがドラマ性を出しております。
よくある若者の素人探偵物語というプロットなのですが、アメリカ映画として作られると不思議と質が上がるのは流石です。

連続殺人事件の内容の陰惨さや、背徳的な倒錯世界など、かなりリアルに作り込まれているので、緊張感があります。

面白いのは、ウイットに富んだセリフで、理想的で平和なコミュニティの人々が互いを監視し合う異常性を背景に、クリスチャンであるべきという固定観念が"変態"を悪魔を見るように侮蔑し、信仰のないものにはただの"フェチ"という理解を示すなど、会話劇の表現です。
父親が連続殺人事件に関わっているという疑いを誰にも話せずに苦悩して、やっと理解してくれる相手に告白すると一蹴されるなど、誰の目にも"いい人"に写る相手への固定観念が、妙にリアルに表現されております。
シリアルキラー物などは、ごくありふれたストーリーとなった昨今には、驚きこそないストーリーですが、倒錯されたSMボンデージの写真や、綿密に構想を練った拷問図面、病的とも言えるスクラップブックなどのコレクションの数々にゾッとさせられるなど、演出の旨さが作品を盛りたてております。
静かに淡々と進む作品ですが、それらの要素から目が離せなくなります。

僅かな"真実"を交えながら、平然と嘘をツキあまつさえ理由を正当化してしまうなど、FBIシリアルキラー・カテゴリーの典型的パターンとして演出しているので、よりリアルさが増します。

犠牲者を物色するためにスーパーの駐車場にいたり、ストーキングをしてメモを取ったり、女装して犠牲者を真似たポラロイドを撮影したり、平然と他人の敷地に入り込んでうろつき周り、妻からの伝言を聞きながらベッドに並べられたレイプ用具の数々など、音楽を効果的に使うわけでもなく、環境音のみで淡々と演出する日常生活にゾッとするシーンは、前半部で"いい人"をイメージ付ける演出しているおかげで、不気味さがこれでもかと増す秀逸な演出です。
刑事がシリアルキラーを追い詰めるスリラー作品よりも、リアルで怖いです。
そしてこのシリアルキラーも犯行は、淡々と行うのが演出とマッチしていておぞましくあります。

タイラー、ドン、キャシー主要3キャラクターにキャスティングされた役者達が、非常に高い演技力を持って演じているのも注目です。

父親が徘徊して犯行に至るまでのオフスクリーンとして、タイラーとキャシーの回想シーンで繰り返される背景。
犠牲者側の視点と、目撃者側の視点と、犯人の視点という、確信に迫ってゆく3つの構成が上手く組み立てられていて、スリリングです。
おぞましい事件を描いたスリラーでの、このスリリングさはジョン・レグイザモ主演の「タブロイド」を鑑賞した時以来かもしれません。

結末は、後味が悪いように見えますがタイラーは幸せだった家族を守る為に、"秘密"を貫き通しており、前半部で描かれていたタイラー自身の疎外感を観客に伝えてからの結末なので、ああいった閉鎖的に教化されたコミュニティの恐ろしさに、あえてなかったことにするのが一番理性的な選択だと思えるように表現されているのだと思いました。

犯行現場に踏み込んだ息子へ、何事も無かったように親として語りかけるドンは、完全に狂っており社会に居てはいけない"怪物"であります。
司法の手に委ねても平然と嘘をつき、もしかしたら精神病として収監されるだけかもしれません。
あのラストの絶望的な父親との対峙シーンで、タイラーはそれを悟ったゆえの選択だったのかもしれません。
しかし、大好きだった尊敬できる父親への愛情もそこには見え隠れしており、本気で父親に付けられた傷を鏡で泣きながら見るタイラーに、こちらまでも目頭が熱くなる思いでした。

これは家族がシリアルキラーへの疑いを確信した一人の青年の物語ではなく、思春期の多感な青年が家族を背負って平穏に暮らすには、時には非情な選択も必要であるという、社会の厳しさから大人へと成長する物語であると思います。
ゆえに、タイラーの視点からおぞましい事件を描いているのだと思います。
自らの手で決着を付けて、その父親への愛をスピーチするタイラーの気持ちがよく現れる演技でした。
ラストで英雄として飾られているドンを見ると分かるように、事故ではないにせよ自殺との見解から"クローブヒッチ・キラー"との関連性に一抹の疑いもない計画の成功を表しています。
それがよりタイラーの苦悩に現れているのが、なんとも後味が悪いですけど。

思春期ドラマと連続殺人事件をミックスして、とても引き込ませる名作スリラーとして描いた作品へ、4点を付けさせていただきました!

「荒野にて」でも演技力は注目していましたが、タイラー役のチャーリー・プラマーの演技力が冴えています。
「ハンバーガー・ヒル」のディラン・マクダーモットも、異常者に見えないシリアルキラーとして、ゾッとする演技でした。
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