このレビューはネタバレを含みます
原作既読。この「原作既読かどうか」は今作の場合はめちゃくちゃ重要かもしれない。
原作が評価されているのは、これがいわゆる新本格ミステリーであって、その舞台装置としてゾンビによるクローズドサークルが作られている事や、トリックに「ゾンビ」という特性が自然に分かちがたく取り入れられている事、設定の特殊さがあるにもかかわらず謎解きはロジカルである事が斬新であり上手さだったためだろう。ミステリー好きとしては「こう来たか!」という驚きと楽しさがあった。
近年流行の特殊設定ミステリーの中で上質なものだと思う。
明智という名探偵の名前を持つ登場人物が早々に退場し、ワトソンが別の探偵に奪われるという展開も、従来のミステリーの常識を覆すものだった。
しかし映像化されたときに、予告でミステリーであるかのような印象を与えた上にゾンビのパニック要素が視覚的にインパクトがあったために、期待とは違うという感想が多くなってしまうのは仕方がないだろう。
全体的にトリックっぽいなあと思ったら同じ監督だった。
剣崎比留子役の浜辺美波はとにかくめちゃくちゃ可愛くて、あの漫画的キャラを演じられるのは彼女しかいないかもしれない。
神木隆之介も気が弱い助手役としてとても良かった。
でもこれもゾンビが出てきて中村倫也がすぐ退場して、期待と違うとがっかりした状態でコメディタッチを見せられると、逆効果で悪ふざけのような印象を与えてしまったかもしれない。
私はたまたま原作者の講演を聞いたが、司会やほかのパネラーが「ゾンビ」という単語をネタバレとして伏せようとしていた中で、原作者自らがゾンビが出てくる事を開示していた。ついでに次作、次々作の特殊設定も普通にしゃべっていた。原作者としてはゾンビが出てくる事が驚きではなく、特殊設定を取り入れたミステリーとして面白いという自信があったのだろう。
この映画もゾンビは開示して予告しておいた方がもっとミステリーとしての面白さを味わえたのではないかなと思うし、そこが少し残念でもある。
不満点は明智と決別するあのシーンをなぜ全部終わった後にしたのだろう。そこは原作通りの緊迫した場面で良かったのではないか。
取って付けた感がすごかった。