rayconte

行き止まりの世界に生まれてのrayconteのレビュー・感想・評価

5.0
子供の頃から、スケートボードと映画が大好きだった。
大人はみんな夢や目標を持って努力しろというが、結局社会では最初からいいエンジンを積んでるやつが圧倒的に有利だ。
大人は知っているはずの現実を隠していて、そういう折り合いのつかない矛盾に納得できずいると、いつの間にか言いなりにならないことにこだわるようになっていた。
スケートボードで街を滑れば、ただの路面や段差がステージに変わる。
映画を観れば、新しい世界やまだ見ぬ自分と出会える。
誰にも規定されない自由な想像力の海が、そこにはあった。
映画もスケートボードも、社会のシステムに溶け込みきれない者にとってかけがえのない居場所だった。

僕の個人的な体験に基づく共感を差し引いても、本作は純粋に映画としての質が高い。
ザック、キアー、そして監督のビンという同じ街で生きてきた三人の異なる人生を交差して描き、単なるドキュメンタリーではなく「人間交差点」のような群像ドラマとして巧みに構成されている。
街から抜け出せない男、街から抜け出したい男、街から一度抜け出して戻ってきた男。
同じ場所で一緒に遊んでいた仲間の分岐した人生を、映画の製作を通じて再び手繰り寄せ、つかの間の帰結へ辿り着く。
さらに後半には、ある種の裏切りもある。
監督のビンはザックとキアーの人生に深くコミットするうち、ビン自身の人生とも向き合ってゆくことになるのだ。
ドキュメンタリーは通常、被写体に撮影者が干渉しないようにする。
それは被写体のありのままを撮影するためなのだが、考えてみれば無理がある。
カメラが入っている以上それはもう「日常」ではなく、100%のリアルとは言えない。
だが本作は、撮影者が被写体の生活に存在していることも含めて、干渉し深入りすることで何が起こるかを捉えている。
カメラがあることによって起こる化学反応、ドキュメンタリーのリアルがこの作品にあるという点では、クリスティーの「そして誰もいなくなった」にも通ずる面白さもある。

若さを追った青春ドキュメンタリーでもなければ、イデオロギーに基づく社会派作品でもない。
この作品は一筋縄ではいかない、人生そのものがそうであるように。
ただひとつ言えることは、これはスケートボード映画ではないということ。
これは、大人になれないすべての大人たちについての映画だ。
僕や他の誰かにとってのリアルを、歴史には残らない感情の揺らめきを、この作品は刻んでくれている。
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