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黒い司法 0%からの奇跡のしおえもんGoGoのネタバレレビュー・内容・結末

黒い司法 0%からの奇跡(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

タイトルですでにハッピーエンドが約束されているので安心して見られる。

ストーリーは割と素直に進んでいくので変なハラハラ感は無いのだが、その分警察や司法の現場で行われている理不尽に集中してみることができた。これが1960年代の話であれば、直接的な暴力がスティーブンソンや彼の協力者を襲う事を切実に心配しなければならかっただろう。

何よりも驚くのがこれが1980年代の、しかも後半の話だという事。
私も普通に生活していたあの頃にこれが現実に起きていたのだ。そしてBLMを見れば今もまだ続いている。

日本では人種差別はないと言われるが、私は普通にあると思っている。私だって差別意識は持っているし。警察が時に暴走する事や、司法にも問題はあることも知っている。
それでもアメリカという民主的な文明国家で警察や司法でここまでの杜撰さがまかり通る程だという事に驚く。しかもただの収監ではなく、死刑判決を出すのに。

司法や警察組織が敵対している状況がいかに恐ろしいことか。その気になれば簡単に逮捕出来るし射殺もできる。本来自分を守り助けてくれるはずの組織が法的な権限を盾に敵になっているのだから助けを求める先も無い。黒人の人達が警官に激しく抵抗したり反抗して「これは逮捕されたり制圧されるのも仕方ないのでは」と思う部分もあったのだが、これではそうなるのも止むを得ないだろう。逮捕されたら終わりかもしれないのだから。

しかしこの映画を見終えて暖かな気持ちになるのは、スティーブンソンの正義感やジョニーDが自由を勝ち取ったからだけではなく、途中で大きく態度が変わる人達の存在があるからだと思う。

特にジョニーD事件唯一の証人であるラルフ・マイヤーズ。彼が法廷で保安官に怯えていた状態から、ジョニーDを正視した時に目に力が入る表情。理不尽な目に合っている彼と、同じように保安官にクズのように扱われている自分の現状に怒るように強くはっきりとと証言を否定した時は目頭が熱くなった。恐らく不幸な幼少期から火傷のせいもあって簡単な人生では無かったはず。証言すればさらに怖い目に遭うかもしれない中で、他人のために立ち上がる勇気と正義感を持ち続けていた姿に感動した。(これ自体もそんな不幸な人がまともに育つわけないという偏見かもしれないが)

また面会に来たスティーブンソンに最初の差別の洗礼を浴びせる若い看守も、ハーブの死刑を経て大きく変わっている。
ハーブの死刑に至る一連のシーンは胸が苦しくなった。私自身は死刑制度に反対しているわけでは無いが、人一人がこうして怯えながら死んでいくのだという事を改めて突き付けられた。それを目の当たりにした若い看守も、こんな杜撰な捜査で死刑判決を受けている囚人たちの事、それを正そうとするスティーブンソンのやろうとしている事の意味に気付いたのかもしれない。

彼らのようにどんな人でも目を開き、自分の中の正義感に目覚め、正しいと思う行動がとれるようになるという事は大きな希望だ。

役者は全員本当に素晴らしかった。
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