幽斎

108時間の幽斎のレビュー・感想・評価

108時間(2018年製作の映画)
3.8
断眠と言えば「インソムニア」Christopher Nolan監督。そして私の好きなBrad Anderson監督「マシニスト」。本作は断眠に「舞台劇」を用いた新たな入れ子構造のスリラーで、シノブスとしては「現実」「断眠に依る幻覚」「舞台劇のシナリオ」「○○の世界」の4層レイアーが大傑作「インセプション」を彷彿とさせる、は褒め過ぎか。

ナショジオで見た「断眠の世界記録ラット対人間」を思い出した。断眠の世界記録は264時間(11日間)。スタンフォード大学William C. Dement教授の監修で、サンディエゴの高校生Randy Gardnerが1964年に記録。意外にも断眠後に15時間爆睡した後は後遺症を残さなかった。この研究では脳波の測定を行わず環視のみで、実際には今で言うマイクロスリープやせん妄(意識障害)が有った、と言われてる。現在では倫理的見地から断眠はギネスから除外された。

ベネズエラ出身Gustavo Hernndez監督は前作「SHOT」で、冒頭からラストまで86分ワンショットで描いたPOVホラーが評価され、アベンジャーズのElizabeth Olsen主演「サイレント・ハウス」でハリウッド・リメイク。勘の良い方ならお分かりですね、そう「カメラを止めるな!」の元ネタです。本作も複雑な脚本を私のFilmarksデビュー作4.8評価「インビジブル・ゲスト悪魔の証明」と同じスペイン映画らしい巧みな伏線回収で、レイアーを破綻する事無く描いた手腕は、素直に褒めたい。

後日コミックに詳しい友人から「これって”ガラスの仮面”真っ青やな」と言われた(分る人居る?)。設定とは言え前衛舞台劇は、生命の危険を冒してまで演じなければ為らないのか?と言う疑問符が終始付き纏う。それをスペインを代表する女優「永遠のこどもたち」「ロスト・ボディ」のBelen Ruedaの存在感に丸投げしてる感は否めない。是非演劇に詳しい方の考察が知りたい。

結末のキレ味が「インビジブル・ゲスト悪魔の証明」には程遠く「大熊座」は本当に観て面白いのか?など説得力の欠落も有るが、オチも「そっち?」と意外性も有る、何より映画、特にスリラーで舞台劇を重要なファクターとする試みは、もっと評価されて良い。ミュージカル以外で演劇を映画が描くのは意外と難しいからだ。ラスト・シーンはもろ「インセプション」(インセプションの結末が分らない、と言う方はコメント下さい)。

文字通り前衛的なスリラーが好きな方は、観ても良いかも(かもです)。
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