牛猫

眠る村の牛猫のレビュー・感想・評価

眠る村(2019年製作の映画)
4.2
「名張毒ぶどう酒事件」の現場となった村を訪れ、村民や関係者への取材に踏み切ったドキュメンタリー。

これまで東海テレビが扱ってきた数々のドキュメンタリーを観てきたけど、「名張毒ぶどう酒事件」を扱ったものは、観れば観るほど気分が落ち込むし、胸糞が悪くなる。
当時より格段に技術が発展して、新たに分かってくる証拠もあり、村人たちの証言の矛盾や、一様に証言が覆された不自然な経緯も解消されないままで、事件が闇に葬られてしまう。
奥西勝さんとその家族の無念さと、日本の司法への不信感が募るばかり。

検察や裁判官が頑なに再審を認めないのは、これまでの作品でも散々指摘されてきたように、これまでこの事件に関わってきた人たちの面子やプライドを守るためだったり、自らの出世のためだったり、腐り切った反吐が出るような体質が原因だというのはよく分かった。
家族の生活のことをちらつかせる汚いやり口で、ろくに休憩時間も取らず長時間拘束された状態で半ば強制的に取られた自白が絶対的な効力を持つことも恐ろしい。この仕組みは一刻も早くどうにかすべき。

あと改めて当時の村人たちが一様に口を噤んでいる理由がどうしても分からない。
奥西勝さんの交際関係が派手でそれが原因で妬みや嫉みがあったというのは想像できるし、実際に当時を知る村人のインタビューであまりよく思われていなかったことが窺い知れた。
でも、だからといって村人一丸となって証言を不自然に変えてまで一人の人間を死刑に追いやってしまうのがどうにも理解できない。誰か一人くらい疑問を呈する人がいても良さそうなもんだけど、そうはならない。どこかから圧力がかかっているのか、閉鎖的な村社会がそうさせるのか。
モヤモヤを抱えたまま亡くなった人もいるかもしれないし、ひょっとしたら真犯人の情報を知っている人もいたかもしれない。

いずれにしても日本の司法はこの事件を風化させようとしているし、村も嫌な記憶として忘れてしまおうとしている。

日本に暮らしている以上、同じ日本で起こったこととして自分には関係ないでは済まされないと思う。これから司法の道を目指す人はもちろんのこと。多くの人にこの事件を知ってほしいと思った。
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