むさじー

ラヴィ・ド・ボエームのむさじーのレビュー・感想・評価

ラヴィ・ド・ボエーム(1992年製作の映画)
4.0
<ボヘミアン芸術家の愛と生活>

芸術家の町、パリ。売れない作家のマルセルは、アルバニア人画家のロドルフォ、作曲家のジョナールと出会い、三人は助け合い友情を深めていく。やがてロドルフォにはミミという恋人ができるが、彼の不法入国が発覚して国外退去を命じられ二人は離れ離れに。半年後に戻ってきて元の鞘に収まり平穏な暮らしが始まったものの、ミミの体は病魔に侵されていた。
原作はプッチーニのオペラにもなった『ボヘミアン生活の情景』という古典文学。ボヘミアンとは、世間に背を向け、伝統や習慣にこだわらない自由奔放な生活をする人とか。
本作の男たちもストイックなようでいい加減、行動は行き当たりばったりでテキトーだが、芸術への憧れとプライドが人一倍強いので尚更始末が悪い。そして男はロマンを求め、女は愛と生活を求めた末に起こる悲喜こもごも。大波小波の窮乏生活だが、カウリスマキの世界なので時折笑いに包まれ、誰もが淡々としているのが味わい深く、社会の片隅で生きる貧しい人々に対する彼の温かい視線が感じられる。
とはいえ売れない三人にとっても、付き合わされる女性にとっても不条理な世界でそこには無常観が漂うのだが、西欧的ニヒリズムというより日本でいう「もののあはれ」に近い気がする。結局、カウリスマキの哀愁はこの無常観に由来するもので、日本人の感覚に似ているのではないか。だから、ラストに日本の曲『雪の降るまちを』が突然流れて、「何故?」という疑問は湧いたものの違和感はなく、これほどマッチするとは、という驚きの方が大きかったものと思う。温かさと哀愁の心地良さに浸った。
むさじー

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