あなぐらむ

実録 私設銀座警察のあなぐらむのレビュー・感想・評価

実録 私設銀座警察(1973年製作の映画)
4.2
朝ドラが永遠に描けない「敗戦」「戦後」がここにある。
生き残った事が良かったのか? 去勢される事を拒み、時代に牙向いてのし上がり、欲にまみれ殺し合う男達。彼らを「死」に引き戻さずにおかないのがポン中の渡瀬恒彦だ。彼の時間は敗戦で止まっている。
「実録」の名の下、手持ちカメラが追い続ける暴力の渦中で、妻を米兵に犯され(占領下の日本の時点で)時間が止まった死神・渡会、彼だけが冷静であるかの様に見える。安藤昇があの晴れがましい席で死ななければならないのは、自明の事だろう。戦争は追いかけてくるのだ。
徹底的に刹那主義の梅宮辰夫は、戦後日本の虚飾の反映を写すかの様だ。松田寛夫と神波史男の叩きつける筆致のホンを、佐藤純彌が正に斜に構え描ききる、身も蓋もない日本の有り様が本作だ。
どんな教科書よりも「実録私設銀座警察」を子供に見せた方が戦後を学べるのではないか。このご時世だから見るべき一作。
復員兵の残酷な現実に続いて東京大空襲をタイトルバックにわざわざ使う本作は、思いきり「敗戦」「戦後」を描きますよ、と宣言する。活写される闇市、パンパンの姿。日本はアメリカに「犯されたのだ」と映画は訴える。
弱点でもあるのは、カリカチュアが過ぎて図式的になっている点。
内田朝雄が豚に食われるシーンは、朝鮮人が日本人の事を「チョッパリ(ゲタを履いてい二本指)」と読んでいた事から読み解けるし、わかり易いのだ。それが佐藤純弥という監督の限界でもある。