基本的にミュージカルは苦手だが、珍しく映画館の予告で観たいと思った作品。結局タイミング合わずに見逃したのをようやく鑑賞。
多くの方がご指摘の通り、この作品は映画館のスクリーンで観るべき作品であるというのがよく分かった。
人生肯定の多幸感溢れる青春群像劇で、とても気持ちのいい、爽やかな作品だった。
サンバが好きなので、「アッパーニューヨークを背景にしたラテンのミュージカル」という切り口にとても興味を持ったのだが、そこは期待を上回る出来映えで、圧巻のパフォーマンス。特にダンスホールでのキレキレのサルサシーンは感動で口を開けて観ていたし、終盤のアパート壁面でのダンスもロマンチックで美しかった。
ミュージカル映画の中でも歌の占める割合が物凄く高い作品ではないのだろうか。
純粋なセリフ劇パートが三割もないような感覚がある。ミュージカルが苦手なのは歌詞ではなくセリフを曲に乗せるのという、あの不自然さや衒いが嫌いなのが大きな理由なのだが、不思議にこの作品では許せてしまう。その理由が自分でもよく分からない。
スパニッシュ・ハーレムに暮らすラテン系マイノリティのリアルな悲喜こもごもを、暗喩的な大停電をモチーフに描くというアイデアは、作劇の視点としてとてもユニークで新味に富むチャレンジだと思う。結果として、作品の通奏低音である「暗闇の中にこそ灯る沢山の小さな希望たち」を効果的に演出するのに成功しているし、なおかつ、それをクオリティ高いミュージカル要素で増幅しているので、面白くないはずがない、物凄く強力な映画になっているんだと思う。
しかし、あえて欠点を指摘するとすれば、「濃すぎ」。カルピスの原液を瓶から飲まされるくらい濃くて胸焼けしそう。
初めからラストまで物凄く密度が高いシーンが途切れないのである。しかもこれに、中盤から後半にかけてジェットコースターのような爆走が加わる。
作り手の情熱は物凄く伝わってくるのだが、やはり緩急のリズムはもう少しあった方が観客には優しいように思った。
自分の中では「ララランド」に勝るとも劣らない傑作の一つになった。