消費者

屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカの消費者のネタバレレビュー・内容・結末

4.1

このレビューはネタバレを含みます

実在の連続殺人犯、フリッツ・ホンカ
彼には容姿やおどおどした振る舞いによってか女性がまるで寄り付かず強い劣等感を抱えていた
それを誤魔化す様に酒に溺れては老齢の娼婦を酒で釣り自宅へと連れ帰りレイプまがいのセックスに及ぶ日々
しかし一度抑圧された欲求が暴れ出すと抑えが効かず自らのEDも含めて思い通りに行かない事や癪に触る事があると娼婦を衝動的に殺めてしまう
そんな狂気的な蛮行を働く彼だが臆病さ故に殺しや遺体の処理も粗くままならない
そんな彼の人生を描いた作品

本作はジャンルとしてはWikipediaにおいてはサスペンスホラーとなっているが実際の所は歪な心に悩まされ続けている1人の男性を描いた映画だと感じた
邦題の様に“殺人鬼”を描いた、というよりは思い悩み苦しんでは酒に走りその末に強姦と殺人を犯し続けてしまう人間の話だ
酒で釣る娼婦の老女達を除いては誰も女性が寄り付かない故に愛の示し方や築き方が分からず性衝動と愛情の区別が付いていない、故に娼婦達に対しても酒や食事でもてなしている以上は自分の所有物たる性欲の捌け口だ、とでも言わんばかりの行動を取ってしまうのだろう
熟女好きという訳でもなくむしろ老女の容姿を嫌悪しているにも関わらず最終的には力づくで服従させるか殺せると判断してかターゲットにしていく事からも強烈な劣等感が感じ取れる

一般的に実在の人物であろうとなかろうと連続殺人犯を描く作品においてはその冷酷さや残虐性が軸として描かれる事が多い
それ故に彼らは姿こそ人間だが怪物かの様に恐ろしい存在に見える
だが実際は本作におけるホンカの様に殺人さえもそれを目的としている訳でも無ければスムーズに出来る訳でもない者も多いんじゃないかと思う
怪物ではなく1人の人間として連続殺人犯を取り上げた映画にHenry Lee Lucasの日常を描いた「ヘンリー」があるがそれともまた違う殺人犯の人間臭さが全編通して漂っていたのが興味深かった
そういった意味で序盤にホンカが一目惚れした女学生、ペトラに襲い掛かる事が出来ずに幕を閉じるラストも彼の人物像描写のダメ押しとして秀逸

ホンカが車に追突された所を教会の修道女に助けられ信仰に目覚めたのか禁酒を決断し警備員として再就職するパートも良かった
禁酒によって衝動を抑え込み社会に少しずつ溶け込んでいくホンカだが優しい清掃員の既婚女性、ヘルガに恋心を抱くも彼女に薦められた事をきっかけに再び飲酒してしまい逆戻り、ヘルガを犯そうとしてしまう
この場面は彼の攻撃性は弱さや愛への飢餓感から来ているという事がとても良く描かれていた

現代においてはホンカの様な強烈な劣等感と抑圧された性衝動を抱える人々は多くの場合、シリアルキラーではなくインセルと化してより過激化するとカップル等を対象に無差別銃撃事件を起こす、という様なケースの方が多い印象がある
だが内に抱えている壊れてしまった猥雑な狂気性というのはそう変わらないんじゃなかろうか
そして相変わらず“モテ”が強大なヒエラルキーの根源とされている世の中ではインセルまで行かずとも少なからずミソジニー/ミサンドリーや社交性の低さを抱え苦しむ人々は少なくない
そういう部分がある人間にとっては共感と言うと行き過ぎだがホンカの様な者の気持ちの根源にはシンパシーが感じ取れるのではないか

誰しも歪さを心に抱えてはいるがそういう人々に自らの厭世観や攻撃性の客観視を促す様なセラピー性を個人的には特に感じられる独特な作品だった
消費者

消費者