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イエスタデイのsanbonのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
3.6
これってほぼ「異世界転生もの」じゃね?

どうせなら邦題は「12秒の全世界同時停電の最中に交通事故にあって目を覚ましたら世界最強の武器を手に入れてた件」にした方が日本人は喜んだだろうな。

正直、あまり「なろう」系とか異世界転生ものには詳しくないのだが、僕の認識がズレてなければ、大概が"冴えない主人公"が"惨めな死に方"をして、生まれ変わった先ではもともと持ってた"才能か趣味がチート級に万能"で、大した苦労もなく"無双"していく作品が多い印象だが、今作では正に上記のあらすじがそのまんま当て嵌まるのだ。

鳴かず飛ばずの、売れないミュージシャンだった「ジャック」はある日事故に遭い、目が覚めたら誰も「ビートルズ」を知らない世界になっていた。

僕も、様々なアーティストのヒットソングを自分が先に発表する世界を妄想してみたりするのだが、その世界線では楽曲のクオリティが認められて世界的に有名になった後、某アイドルプロデューサーにその才能を見込まれ、後任として某有名アイドルグループを任される事になり、プロデュース業と恋愛の板挟みに悩ましい日々を送る僕がいた。

つまり、音楽で名を馳せるというのは富と名声が思いのままという事であり、それを他人のふんどしで達成出来るなんて正に夢物語なのである。

そして、今作はそんな普通じゃありえない都合の良い妄想を、なんの苦労も無く実現してしまうのだから、今流行りのラノベの世界観そのまんまと言わざるを得ない。

やはり日本のエンタメは、穿ったところで先見の明に長けている。

しかし、今作で最も褒めたいところは、そんな中学生が大好きそうな妄想を本気で映画化したチャレンジ精神ではなく、作品で起こる事を罪と位置付けず、ジャックに対する罰を描かなかった事だ。

恐らく、安直な脚本家ならばジャックは間違いなく世界的な成功をおさめた後、世間に真実がバレて"粛清"される事になるだろう。

そして、なにもかもを失い失意のどん底に陥った先にあるごく普通の幸せに気付き、再度前を向いたところでラストを迎えるに違いない。

確かに、この映画は側面を変えてしまうと"盗作"を描いた作品に他ならないのだが、果たして自分以外がその存在を知らない世界の出来事でも、その罪に変わりはないのだろうか。

答えは、"分からない"というのが正解である。

そんな、曖昧な題材だからこそむやみに罪には問わず、自ら本当の幸せに気付かせ贖罪させるスタンスをとらせたのはとても心地が良かった。

また、ビートルズが存在していなくてもビートルズがいた事を証明する"痕跡"を残す事に対する肯定感や、ビートルズが結成されなかった世界でのとあるメンバーの今にスポットを当てていたのも、とても優しい気持ちにさせる要素となっていた。

今作は、そんな優しさで構成されていたなろう系であった為、前半の万能感と後半のハートフルパートで二度美味しい作品であったと言える。
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