ゆめちん

9人の翻訳家 囚われたベストセラーのゆめちんのレビュー・感想・評価

4.0
9人の翻訳家 囚われたベストセラー

すっかり騙されましたが、目が離せない展開が続き、最後までしっかりと楽しむことができました。

人気小説 "デダリュス" 完結編の出版権を手に入れた出版社社長のアングストロームは、世界同時出版のため、9カ国の翻訳家を密室に集め、外部との接触を断って翻訳作業を進める中、小説をネットに公開するという脅迫メールが届きます。

多言語を操る翻訳家という職業に、様々な個性が味付された役柄は皆魅力的で、そんな翻訳家たちを各国俳優陣が見事に好演。
特にオルガ・キュリレンコ演じるロシア語の翻訳家カテリーナの、"デダリュス" のヒロインのコスプレ姿はとても美しく、深く印象に残りました。

前半は人物像と状況の説明を絡めながら淡々と進んでいくも、脅迫メールが届くと一気に緊迫感が増し、そこからはどんでん返しの連続で、テンポ良くラストまで雪崩れ込んでいきました。
実話からの着想で練りに練られた脚本と巧妙に張り巡らせた伏線、その複雑な構成は見事。
特に刑務所でのアングストロームと犯人の見せ方は、カメラワークの妙もあり完全に騙されてしまいました。

そして刻々と変わるミステリーの展開とともに、翻訳という仕事の複雑な思いや、家族との微妙な関係など、登場人物の内面が繊細に描かれ、作品に深みを与えていました。

3回目の脅迫メールが届き、完全に理性を失うアングストロームを、翻訳家たちが様々な言語でコミュニケーションを取って、事態を打開しようとする緊迫したやりとりは見応えがありました。

それにしても、翻訳家はあまり脚光も浴びず収入も少ないという現実。多言語を操れるという非凡な才能が、もう少し大事にされてもいいのではと感じました。
ゆめちん

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