るる

パラサイト 半地下の家族のるるのネタバレレビュー・内容・結末

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

怖かったよお、しんどかった、怖いな、イヤだようえーんって、映画館じゃなかったらジタバタしてたと思う、観賞後、雨の中、夜道を歩いて帰りながらじわじわ怖かった。怖すぎて泣きたかった。

あなたの家の地下にも誰かが住んでいるかもしれない、街のどこかに、いまも"彼"が隠れているかもしれない…という、恐れ畏れを植え付け、観客の現実・日常に爪痕を残すことがこの手の社会派映画の成功であり、良いホラー映画の条件だと思うんだけど、ホラー映画の手法を採用して楽しんで撮ってることがビシバシ伝わってくる、監督のピュアな毒を感じてまたしんどかった。ホラー映画は作ってるひとが楽しそうに作ってると感じたときが一番怖いと思っているので。。

ポン・ジュノ作品、笑いとホラーが同居しててやっぱり怖い、安全圏にいさせてくれない、怖いよお。

刺す側の気持ちも刺される側の気持ちもわかる、いつ転落してもおかしくない恐怖を10年くらいずっと抱えてるし、いま、たまたま、ギリギリこういう生活ができていて、羨まれたり僻まれたりすることもあるけど、富裕層なんかには程遠いし上を見たらキリがないし、なのになんでお前に妬まれたり皮肉言われなきゃいけないんだ、八つ当たりする相手が違うでしょヤメテくれよ、とは、言えない…あなたは友達だし失礼な物言いはやめてとは言いにくい、たぶん私の方が知らず知らずのうちにあなたに失礼な態度をとってきたし…というストレスをもう20年くらい抱えている立場で見たのでもう、めちゃくちゃしんどい。格差がテーマの映画は毎度覚悟して観に行くんだけど、

ポン・ジュノ作品、たぶん初見は『グエムル』で、怪獣&SFスリラーな撮り方に対して、なにこのお笑い家族の団欒描写、え、これ意図的な演出だよね? こんなのアリなの、意図的に挿入してるなら緊張と緩和でつまりコメディが上手すぎでしょ、ジャンル映画でこんなことできんの…!?と本筋との温度差にビックリしたことを覚えている、オールジャンルOKのイメージ、でも『吠える犬は噛まない』をウッカリ犬と一緒に観ようとしてしまって冒頭で挫折したことも覚えているので、やっぱり怖い、怖い。

家庭教師の仕事を紹介してくれた彼、おそらく、大学の同級生には頼めないけど、半地下住まいのコイツになら意中のお嬢さまを奪われることはないだろうという打算があって仕事を紹介してるあたり、半地下の住人を見下していたし、侮っていたよな。。好青年らしく「お前のことは信じてる」なんて言ってたけど、耳障りのいいお上品な言い回しでえげつない本音を隠してんじゃねえよって。それとも本当に無自覚なのかな…なんて。いきなり勘繰ってしまったので疲れた。

初っ端から、こういう、他者のフとした差別意識に触れる描写が降り積もって主軸となっていく話ならしんどいなとソワソワしてしまったんだけど、作中で彼の真意について明言されなくてびっくりしたな。あの石をプレゼントするあたり、やっぱりちょっとズレてるというか、バカにしてたと思うんだけどな…一番必要な、金をあげることはなく、かといって食べ物の差し入れなど、当たり障りのない消え物をあげるわけではない、意味を感じなければ邪魔なだけの贈り物をする、ズレ。

ああいうズレたプレゼントをたぶん私もしたことがある、という気がして、キツかった。この映画のなかで、私にとって、たぶん一番生育環境が近くて共感できる存在って、半地下に友人がいる、中流家庭育ちの彼、だったので、その後登場しなかったことでまた居心地が悪かった。たぶん、この映画のメインターゲット層って、彼くらいの生活レベルのひとなんじゃないか、だからあえて画面から消したんじゃないか、という気がして、突き付けられてキツかった。

弟くんがあの石をあんなふうに後生大事に抱えるだなんて、あの石に特別な意味を見出すだなんて、贈り主の彼は思ってなかったと思うんだよな。どうなんだろうか。。

ひとりずつ家に紛れ込む様子は落語のようで面白かった。

しかし、嘘でしょ、まさかまさかまさか、この家にも地下がある、家族が暮らしている…!? と判明するあたり、カメラがぐわーっと降りていく、あの一連、ぐるぐると目眩がしそうだった、体がちぎれそうなくらいハラハラした、凄かった…

北朝鮮の物真似って韓国でも定番なのかとちょっと興味深かった。しかしあの夫婦と家族の形勢逆転、とんでもない虐待や拷問が始まるんじゃないかとハラハラしてしまった。滑稽だからこその生々しさが常にあった。

頭を殴って、縛り付けて、地下に押し込み、地上に這い出すことを阻止する、ああいう必死の、どちらが這い上がるかの泥臭い攻防、身体が擬似的な追体験をしてしまって必要以上にハラハラして苦手。

リスペークト! 怖かったなあ…まさか、いつも、誰かが通るたび、人力でスイッチを? ソン・ガンホの異様なものを見る目、怖さを倍増させたと思う。

見つかるんじゃないかというドキドキ、どうしようもなく滑稽な命がけの隠れんぼ、よく悪夢で見るシチュエーションなのでこれも辛かった。

しかし、セックスの描写がめちゃくちゃ生気に満ちていて作品に似つかわしくないほどにエロくて、美しい彼らが興奮している内容がまた下世話で、それが生活や人間のの生々しさに繋がっていて、この描写があることによって、作品として一段高いレベルに押し上げられていて本当に凄かった。

水没する半地下、あの泥は実は泥パックで、美容にいい素材で撮影された、という事前情報があった上で見られたので良かったと思う、汚水だと思って見ていたら映画館で吐いてたかもしれない、あのシーンだけはいかにも作り物として見られる余裕を持てたので個人的に良かったと思う。呑まれずに済んだ。

体育館に押し込まれた被災者たち、日本に住む人間としては、馴染みがあるけど、どこか非現実的な光景として迫ってきたよな。あそこは生々しいディティールよりも、センセーショナルな描写として狙っていると感じた。バランスがすごい映画だよな。。

身近な災害や他人の苦労を知らずに、自分は安全圏で楽しく過ごしていて、目の前にいる人を悪気なく傷つけてしまう、あれ、個人的に最も向き合いたくないことのひとつなので、きつかった。誰しもがそういうことはある、と思ってはいるけれど、よく気付いては、なんて無神経な態度をとってしまったのかと落ち込んでいるし、他人が誰かに対して無自覚に無神経な様子を目にするたびにイライラしてしまうので、突き付けられてきつかった。

急なお呼ばれに当たり前のように手土産を持ってきて、あんな綺麗なおべべを着て、庭でチェロ演奏、オペラ歌唱まで!! のけぞるようなハイクラスなひとびと、笑っちゃったよ

そして惨劇、ああつらいきついしんどい…ギリギリと絞られるような、選別される命、車のキーなんか明後日の方向に投げてやればよかったのを、匂いを嗅ぐシーンはあざとく、しかしそれがトリガーに…

ギジョン役のパク・ソダムさん、最近気にしている芸人のヒコロヒーさんと似てる、と聞いていたので、ずっと、見た目も似てるけど、あの境遇の中でシニカルに生きてる感じ、まさにヒコロヒーさん(概念)だ…いや違う違う、などと思いながら見ていた。刺されて、クソ、という、最高の女だったな、悲しかった。

ソン・ガンホ氏も笑顔が怖いときがあるよなって序盤はソワソワしてしまった。インディアンの仮装姿、けっこうまえから画像を目にしていたので、ああそうか、この映画のワンシーンだったか、と納得。製作決定・公開前情報だけ目にして半年〜一年以上経って公開された作品を見る、というのを繰り返してるとわけわかんなくなるな。

雪山からラストにかけて、めちゃくちゃ良かった。

石との決別、彼の新しい計画、夢、あの家を買う…そんなこと、できるのか? 本当に? いま、この状況から? ……無理では? と途方に暮れてしまうような結末で、誤魔化していないのが良かった。

アカデミー賞受賞後、映画館の一番大きなスクリーンで満員だった、もっと小さなスクリーンで、人がまばらな客席でこっそり見たいタイプの作品だったけれど、妙な熱気と、観賞後の意外とあっさり、ゆるい雰囲気を感じられたのは良かった…と思う。「ここで終わるのかな、と思ったのに、まだ続いた」と感想を話しているひとがいて、そうだよなあ…でもあれで良かったと思うよ…などと思った。

あの美しい、無音の静寂の中での再会シーン、焼きついて離れない光景、遠い遠い夢、胸が詰まった。でもやっぱり、あそこで終わっちゃダメだったと思う、半地下で計画を立てる彼の姿で終わる、それでこそ、と思った。

なんというか、基本的に貧困層がこういう映画を見ることはない、吹替ではない、字幕を読まなければならない映画、ましてや韓国映画を、お金を払って映画館で見ることなんてないのだ、ということを、いまの私は知っている…ということ、所詮地上より遥か上から描かれた半地下でしかない、いうことを考えずにいられなかった。しんどかった。

それにしても印象的なシーンが多かった。

意に反して笑ってしまう疾患、格差社会、有害な男らしさ、これがアカデミー賞ノミネートされたなら『ジョーカー』を外して女性映画を加えても良かったのでは、という気さえした、同じテーマを扱いながら圧倒的に上回っていたという意味で、作品賞受賞は納得。リアルタイムで見れて良かった。


2020.5.30.
一連の新型コロナウイルス騒動を経験して、今後、日常生活の中で、格差に無頓着な、無神経な言動に触れる機会が増えることを思うと憂鬱だ。2月のうちに映画館で見られて本当に良かったと思う。

2020.6.23.アマプラで再見
改めてものすごい、なんて計算され尽くした映画なんだ、すさまじい画面のコントロール力

ここで生まれたような気がするし、ここで結婚もした気がする、改めてすごい台詞だった、

あの地下ではトイレの水が流れるんだな…
るる

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