話したい人がいる。彼は人懐っこくて、血液型も同じで、世間知らずなところが、どこか自分に似ていた。だから危なっかしいところが、自分をイライラさせた。ちょっと冷たく接したかもしれない。ちょっと厳しく接したかもしれない。かなり突き放したかもしれない。彼が会社を去ると決めた時、引き留めはしなかった。その代わり、これから先のことについて沢山話した。それでも足りなかったかもしれない。もっと話せばよかった。そうすれば、こんなに後悔することはなかったかもしれない。彼が消えていくなんて思っていなかったから、言い忘れたことがまだある。だから、風の電話が必要なんだ。また話したい。
原爆であったり、原発であったり、津波であったり、過去に学ぶべきことは沢山あると思う。驚くべき速さで全て忘れ去られていく。
世界中が環境破壊を阻止する方向で一致していても、一瞬で地球を破壊できる原爆は廃止出来ない。核廃棄物の処分方法が決まらないまま、原発は再稼働している。太平洋側全域で津波や高潮の危険があるのに、防波堤を整備するのではなく、海岸線には高層マンションと商業施設が建ち並ぶ。
人の声を聞くことを忘れた人が沢山いる。そんな人達が受話器を取ることはないだろう。だから、風の向こうの人達の代わりに、一方的に話し続けなければならないのかもしれない。独り言でも良いと思う。いずれ風の向こうで後悔することになるのだから。
