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風の電話のtetsuのレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
3.6
再上映で鑑賞。

震災で家族を失い、広島に住む伯母・広子の家で生活している高校生・ハル。
ある日、広子が倒れてしまったことから、不安に駆られた彼女は、かつての故郷・大槌町へと向かう...。

リュミエール兄弟、ゴダール、アラン・レネ、ヒッチコック...。
過去作で様々な映画人のオマージュを盛り込んだという情報を聞き、映画史に造詣が深いイメージが強かった諏訪監督作品でしたが、分かりやすい物語だったので安心しました。

『風の電話』というタイトルでありながら、クライマックスまで全く触れられることがない意外な展開には、少し困惑しましたが、主演のモトーラ世理奈さんの存在感、脇を固める実力派俳優の名演が素晴らしく、ロードムービーとして完成されていたのが良かったです。

これまで様々な監督が扱ってきた震災というテーマですが、難民が登場するという部分は新鮮で、新たな価値観が芽生えましたし、これが監督独自のカラーなのかなと思ったり...。
過去に監督が撮影したというフランス映画も観たくなりました。

以前、観た「311」のドキュメンタリー『friendsafter3.11【劇場版】』では「残された者にしか当時の様子を話すことは出来ない」という言葉が印象に残ったのですが、本作の終盤では「残された者が当時の様子を話すことができるからこそ...」の展開があり、その重要性を感じました。

役者自身の演技を重視した「長回し」の演出によって、"演技をしている"という面が誇張された部分は個人的に合わなかったのが本音ですが、総じて観ることが出来て良かったなと思える作品でした。
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